緑の地、その右下の隅にだけ、赤・黒・橙の3本の縦帯、そしてその上を橙色の鷲が舞う。ザンビアの国旗です。右下の隅にだけメインのシンボルがあるという、世界の国旗のなかでもものすごく珍しいレイアウト。そして鷲が舞うその下にあるのはというのも、この国らしい話です。今回はそんなザンビア国旗の話です。


まずは構成のおさらい

ザンビアの国旗の構成は、ちょっと不思議なバランスです。大部分が緑の単色で、右下の隅にだけ赤・黒・橙(オレンジ)の3本の帯が縦に並びます。そしてその3本の帯の真上、緑の領域に、橙色のサンショクウミワシが描かれています。

文字や紋章はなく、絵としてシンプルです。でもメインの要素が右下の隅だけというレイアウトは、世界の国旗のなかでもザンビアくらいです。左上のカントン(ユニオンジャック等)と対角線上に位置する配置で、視覚的にとても独特な印象を残します。

色とシンボルの意味は、次のとおりです。

  • :国土の豊かな自然と森林資源
  • :独立闘争で流された血
  • :アフリカ系住民
  • :銅。ザンビアの経済の柱
  • サンショクウミワシ:自由、国民の高い志

「右下のコーナー」というユニーク設計

ザンビア国旗のいちばんの特徴は、シンボルが旗の右下のコーナーだけに集中していることです。

世界の国旗を見渡しても、メインの絵柄が旗の片隅にだけある例は本当に少ないものです。左上のカントンに紋章を置くのはユニオンジャック系(オーストラリア、ニュージーランド、フィジーなど)、左上に小さな模様を置くのはアメリカ国旗やマレーシア国旗ですが、右下にシンボルを置くザンビアは、世界でも稀です。

この右下配置の理由については、諸説あります。ひとつは植民地時代の旗との決別という見方です。英国系の国旗は左上のカントンにユニオンジャックを置くのが定型で、その伝統を真逆に裏返すことで、植民地時代の国旗のフォーマットを完全に覆すという政治的・芸術的なメッセージを込めた、というものです。もうひとつはデザインの個性という見方で、エリソンが意識的に「世界に類を見ない構図」を狙ったという芸術的選択だとされます。

実用面では、フライ側(旗竿の反対側)は風で激しく動き、摩耗で破れやすいものです。旗章学(Vexillology)の常識では、重要なシンボルはむしろホイスト側(旗竿側)に置くのが定石です。つまり「機能性のため」ではなく、あえて定石を外した独自の選択だったと見るほうが、現代の旗章学の観点には沿っています。

機能性よりも、独立国家としての視覚的独自性を優先した設計。ちょっと感心する選択です。


サンショクウミワシ ── 自由のシンボル

国旗を飛ぶサンショクウミワシ(African fish eagle)は、ザンビアを代表する鳥です。ザンビアの国鳥であり、同時にジンバブエの国鳥でもあります(両国ともザンベジ川を象徴的な川とするためです)。

特徴

サンショクウミワシは、白い頭部と尾、茶色の胴体を持ち(アメリカのハクトウワシに外見が似ています)、翼長は2m以上になる大型猛禽です。「アフリカの空の声」と呼ばれる、ピーピーと高く響く独特の鳴き声を持ち、魚を主食として、水面ぎりぎりを飛んで魚を掴み取ります。

サファリ・ガイドや観光地では、サンショクウミワシの鳴き声を聞いて初めてアフリカに来た実感がすると語られるほど、東アフリカの自然そのものを象徴する存在です。

ザンビアにとっての意味

ザンビアにとってこの鷲は、自由と高い志、困難を乗り越える力、そして未来への希望を意味します。

国旗のなかで橙色(銅の色)に塗られた鷲が緑の空を飛ぶ。これは、ザンビア国民が自分たちの自然と資源とともに未来へ向かって飛ぶというメッセージを伝えています。

鳥が描かれた国旗自体は世界に多数ありますが(エクアドル・エジプト・キリバスなど)、鷲がメインの絵柄で、しかも国土の経済柱(銅)の上を飛ぶという構図は、ザンビアの独自性です。


「オレンジ=銅」── 国の経済の柱

ザンビアの橙色の3つ目の縦帯、これは銅を表しています。

ザンビアと銅

ザンビアは、世界有数の銅生産国です。アフリカ最大の銅生産国であり、世界では第8位前後(年間約75-80万トン)に位置します。国の輸出収入の70%以上が銅関連で、北西部のコッパーベルト州に巨大な銅鉱床があります。

銅なしにはザンビア経済は語れないというレベルで、銅は国の生命線です。国旗にその色を入れるのは、当然の選択でした。

銅の歴史

実はザンビアの銅採掘の歴史は非常に古く、5,000年前から先住民が銅を採掘・加工していた痕跡が残っています。鉄器時代以前から、銅器文化が栄えていた地域でもあります。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、セシル・ローズ率いるイギリス南アフリカ会社が大規模な銅鉱山開発を始め、「ノーザン・ローデシア」(後のザンビア)の経済的基盤を作りました。

5,000年前から続く銅の国。その歴史を、橙色の縦帯1本に込めているわけです。


設計者は、ザンビアの女性アーティスト

ザンビア国旗の設計者は、ガブリエル・エリソン(Gabriel Ellison、1930-2017)です。

どんな人物か

エリソンはザンビア人の女性アーティスト・グラフィックデザイナーで、ザンビア独立直前の情報省グラフィック・アーツ部門の責任者を務めていました。

彼女が手がけた仕事は、1964年のザンビア国旗のデザイン、ザンビア国章の最終的な意匠調整、ザンビアの記念切手の多数、そして独立後のザンビアの国家ビジュアル・アイデンティティ全般にわたります。

国の見た目を、ほぼ一人で作った人物。アフリカ独立期の国旗デザイナーのなかでも、女性が中心的役割を担った稀有な例です。

アンティグア・バーブーダのレジナルド・サミュエル(高校美術教師)、UAEのアル・マイナ(19歳の応募者)、ガーナのテオドシア・オコー(教師・女性アーティスト)など、プロのデザイナーではない市井の人物が国旗を作った国は意外と多く、ザンビアもそのひとつです。

エリソンは2017年に86歳で亡くなるまで、ザンビアの文化と芸術の重要人物として尊敬を集め続けました。


1964年、北ローデシアから「ザンビア」へ

ザンビア国旗が制定された1964年10月24日は、ザンビアという国がイギリスから独立した日でした。

それ以前

ザンビアは独立前、北ローデシア(Northern Rhodesia)と呼ばれていました。1888年からはセシル・ローズのイギリス南アフリカ会社が支配し、1924年にイギリス植民地省の直接統治となります。1953年から1963年までは、ローデシア・ニヤサランド連邦の一部でした(南ローデシア(現ジンバブエ)、北ローデシア、ニヤサランド(現マラウイ)から成る連邦です)。

「ローデシア」という名前はセシル・ローズに由来します。独立後、植民地時代の名残を消すためにこの名前を捨て、新しい国名を採用しました。

ザンベジ川に由来する名前を取ろう

ザンベジ川は、アフリカ4位の長さ(2,574km)を持つ大河です。ザンビア・ジンバブエの国境を成し、ヴィクトリアの滝を含む、地域の象徴的な川です。

川の名前から、国の名前へ。独立国家のアイデンティティを、地理的なシンボルから取ったというわけです。

1996年の微修正

ザンビア国旗は、独立から32年後の1996年に小さな修正を受けています。緑色をより明るく鮮やかに変更し、鷲のデザインを国章で使われているものと統一しました。

よりザンビアらしく、よりはっきりと。時代に合わせた微調整というかたちです。全体のデザインは変わらず、現在まで続いています。


ちなみに:UNIPの党旗から国旗へ

ザンビア国旗のデザインは、UNIP(United National Independence Party、統一民族独立党)の党旗をベースにしています。

UNIPは独立を主導した政党で、初代大統領ケネス・カウンダ(1924-2021)が率いていました。カウンダ自身も後に「独立の父」として尊敬される人物となります。

党旗の色(緑・赤・黒・橙)をそのまま国旗に取り入れるというのは、ガーナ・サントメ・プリンシペなど、独立アフリカ諸国によくある手法です。

そして1991年、カウンダがついに退任し、ザンビアは複数政党制に移行しました。独立から平和的に民主化を果たした、アフリカでも稀な国として高く評価されています。国旗のデザインは、独立期から民主化を経た現代まで、変わらず残り続けています。


まとめ:右下の隅に、国の本質が集まっている

今回のザンビア国旗のまとめです。

  • 緑地に、右下のコーナーに3本の縦帯(赤・黒・橙)、その上を飛ぶ橙色のサンショクウミワシ
  • 1964年10月24日採用、1996年に微修正
  • 設計者は女性アーティスト、ガブリエル・エリソン(情報省グラフィック・アーツ責任者)
  • 緑は森林資源、赤は独立闘争、黒はアフリカ系住民、橙は銅
  • サンショクウミワシは国鳥、ジンバブエの国鳥でもある(ザンベジ川を共有)
  • 銅はザンビア経済の柱(輸出収入の70%以上)、5,000年前から続く銅文化
  • ベースは独立を主導したUNIP党旗
  • 旧名「北ローデシア」は植民地時代の名残(セシル・ローズに由来)、ザンベジ川から「ザンビア」に
  • 1991年、独立指導者ケネス・カウンダが平和的に退任、アフリカでも稀な民主化の成功例

右下の隅に、国の本質がぎゅっと詰まっている。ザンビアの旗は、世界の国旗のなかでもっともユニークなレイアウトを持ちながら、国の経済・自然・歴史・民族すべてを絵柄で語る1枚です。