黄・青・赤の横三色、中央に8つの白い星が弧を描く。これがベネズエラの国旗、南米独立闘争の最重要国家の旗です。1806年に革命家フランシスコ・デ・ミランダがデザインし、シモン・ボリバルが1817年に8番目の星を加えたという、世界の国旗のなかでも特に英雄物語に満ちた1枚です。コロンビア・エクアドルと同じ3色を共有する「大コロンビア三兄弟」でもあります。今回はそんなベネズエラ国旗の話。
まずは構成のおさらい
ベネズエラ国旗の構成は、次のとおりです。
- 横3本の帯(上から):黄・青・赤
- 比率:2:3
- 青い帯の中央:8つの白い5角星、弧を描いて配置
- 左上のカントン(公式旗のみ):ベネズエラ国章
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 黄:国の富、新世界の富
- 青:カリブ海とスペインからの独立(黄=新大陸の富、赤=旧大陸スペインの血、青=両者を分ける海)
- 赤:独立のために流された血、勇気
- 8つの星:1811年独立宣言に署名した7州+ボリバルが1817年に追加したガイアナ州
ミランダの3色とボリバルの星という、南米独立の二大英雄の物語が、1枚の旗に集約されています。
フランシスコ・デ・ミランダ ── 旗のデザイナー
ベネズエラ国旗の最初のデザイナーは、フランシスコ・デ・ミランダ(Francisco de Miranda、1750-1816)です。
「世界市民の革命家」
ミランダは、世界史でも極めて稀な、3つの大革命に関わった人物です。アメリカ独立戦争(1776-1783)にはスペイン軍人として参戦し、フランス革命(1789-)ではフランス共和国の将軍となりました(凱旋門に名前が刻まれている数少ない外国人です)。そしてラテンアメリカ独立運動(1806-)では、ベネズエラ独立の父となりました。
3つの革命を生きた、世界市民の革命家というのが、ミランダの異名です。
1806年3月12日、ハイチで国旗を初掲揚
そして1806年3月12日、ハイチのジャクメル港でのことです。ミランダの第1次ベネズエラ解放遠征において、新国旗(黄・青・赤の横三色)が初めて掲げられました。ベネズエラへの航海前のことでした。
ベネズエラの国旗がハイチで初めて生まれたというのは、ハイチ革命(1804年成功)の影響を受けた、ラテンアメリカ独立運動の連鎖を物語っています。
1806年8月3日、ベネズエラ初上陸
1806年8月3日、ミランダの遠征隊がラ・ベラ・デ・コロ(ベネズエラの港町)に上陸します。ベネズエラの土地に、新国旗が初めて掲揚されました。8月3日は現在、ベネズエラ国旗の日として国の祝日になっています。
しかしミランダの最初の遠征は失敗
最初の遠征は、民衆の支持を得られず失敗に終わりました。ミランダはスペイン軍に追い返され、イギリスへ脱出します。しかし、彼の国旗は「独立のシンボル」として記憶されました。
「黄・青・赤」 ── ミランダの3色の意味
ミランダが選んだのは、黄・青・赤の3色でした。
ミランダ自身の説明
ミランダは、1792年のロシア訪問時の手紙でこう説明しています。
「新世界のすべての富(黄)は、海(青)によって、流された血と圧政の旧世界(赤)から守られる」
つまり、黄は新大陸の豊かな富(金・銀・農産物)を、青はカリブ海・大西洋(新大陸と旧大陸を分ける海)を、赤はスペイン(旧大陸)の流された血、植民地圧政の象徴を表します。
3色で「新大陸の富、それを守る海、旧大陸の圧政」を表すという、反スペイン植民地主義の明確なメッセージでした。
別の解釈
ただし、現代の標準的な解釈は異なります。黄は国の富、ベネズエラの自然を、青はカリブ海、独立を、赤は戦士の勇気を表すというものです。
ミランダの反植民地的解釈から、独立後の自然・独立・勇気の解釈へというのが、ベネズエラ国旗の意味の変遷です。
シモン・ボリバル ── 8番目の星
ベネズエラ国旗には、8つの星が描かれています。
1811年、7つの星
1811年7月5日、ベネズエラが独立を宣言します。新生ベネズエラ第一共和国は、南米初の独立国家のひとつでした。国旗の青い帯には、独立を宣言した7州を表す7つの星が置かれました。
1817年11月20日、ボリバルが8番目を追加
そして登場するのが、シモン・ボリバル(Simón Bolívar、1783-1830)です。ベネズエラ生まれの将軍で、南米6カ国を解放した「解放者(El Libertador)」と呼ばれます。ベネズエラ・コロンビア・エクアドル・ペルー・ボリビア・パナマの独立に貢献しました。
1817年11月20日、ボリバルがアンゴストゥラで勅令を発します。
「新たに解放されたガイアナ州を、国旗に8番目の星として加える」
ただし、この時点での国旗は「横三色の帯の左上(カントン)に星を並べる」など様々なバリエーションがあり、現代のように「中央の青い帯に8つの星が弧を描く」配置を、ボリバル自身が直接完成させたわけではありません。星が青い帯の中に並ぶ現代に近い配置は、後の時代の改定(1859年から1863年以降)で確立しました。
新たな州を解放したら星を加えるというのは、アメリカ国旗(建国時13星から現在50星)と同じ発想です。
しかし、現代まで7つだった
ところが、1817年のボリバル勅令にもかかわらず、長年7つの星のままでした。政治的混乱やボリバルの死後の分裂があり、公式な国旗は7つの星のままだったのです。
2006年、チャベス大統領が8つに
2006年3月12日、ウーゴ・チャベス大統領が「ボリバルの1817年勅令を、189年ぶりに実現する」として、国旗に8番目の星を正式に追加しました。ガイアナ州(現ボリーバル州・アマゾナス州・デルタ・アマクロ州など)を象徴する星です。
21世紀になってようやくボリバルの意志が完全に実現したというのは、世界の国旗史でも珍しい「200年越しの完成」です。
「黄・青・赤」 ── 大コロンビアの3兄弟
ベネズエラ国旗の3色は、コロンビア・エクアドルと共通しています。
大コロンビアの遺産
1819年から1831年にかけて存在した大コロンビア(Gran Colombia)は、ボリバルが建国した南米北部の超国家でした。ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、パナマ、ペルー北部から成り、首都はボゴタ(コロンビア)に置かれました。大コロンビアの国旗は、ミランダの黄・青・赤の3色でした。
1831年、3カ国に分裂
1831年、大コロンビアが分裂します。ベネズエラ、ニュー・グラナダ(後のコロンビア)、エクアドルの3カ国です。そして3カ国とも、ミランダの黄・青・赤の3色を継承しました。
| 国 | 構成 |
|---|---|
| ベネズエラ | 黄・青・赤の横三色+8つの星 |
| コロンビア | 黄(広)・青・赤の横三色 |
| エクアドル | 黄(広)・青・赤の横三色+国章 |
3国の国旗が極めて似ているというのは、大コロンビアの遺産です。ボリバルの夢(南米統合)の名残として、今も3カ国の国旗に刻まれています。
ベネズエラという国
ベネズエラの基本情報です。
- 正式名:ベネズエラ・ボリバル共和国(República Bolivariana de Venezuela)
- 首都:カラカス(Caracas)
- 面積:約91.6万km²
- 人口:約2,800万人(経済危機で大量流出中)
- 公用語:スペイン語
- 宗教:ローマ・カトリック(約71%)、プロテスタント(約17%)
「ベネズエラ」 ── 「小さなヴェネツィア」
国名「ベネズエラ」(Venezuela)は、イタリア語で「小さなヴェネツィア」を意味します。1499年、アメリゴ・ヴェスプッチがベネズエラ海岸を航海中、マラカイボ湖の水上集落(高床式の家屋群)を見て、「ヴェネツィアに似ている、小さなヴェネツィアだ」と命名したことに由来します。イタリア語の「Venezuela」が「ヴェネツィアエラ(小ヴェネツィア)」という意味です。
ベネズエラが小ヴェネツィアを意味し、マラカイボ湖独特の水上集落文化に由来するというのは、ヨーロッパ人による命名の典型です(ベナンのガンビエは別の地理的・歴史的背景を持つ淡水湖の水上集落で、ヴェスプッチが見たのとは別物です)。
「世界最大の原油埋蔵量」
ベネズエラは、世界最大の原油埋蔵量を誇ります。その量は約3,000億バレルで世界1位、サウジアラビアを超えます。オリノコ重質油帯の超重質油が中心です。
「経済崩壊」
しかし、21世紀のベネズエラは深刻な経済危機に陥っています。1999年にウーゴ・チャベス大統領が就任して社会主義政策を進め、2013年にチャベスが死去するとニコラス・マドゥロが後継となりました。2014年以降はハイパーインフレと経済崩壊が続き、2010年代後半から2020年代にかけて約700万人が国外へ流出しました。これは南米史上最大の人口流出です。
世界最大の石油埋蔵量を持ちながら経済崩壊に至ったというのは、ナウルやナイジェリアと並ぶ「資源の呪い」の典型例です。国旗の黄が富を表す一方で現実は厳しいというのが、現代ベネズエラの皮肉です(諸説あり、評価は政治的立場により大きく異なります)。
「アンヘル滝」 ── 世界一の落差
ベネズエラには、世界的に有名な自然があります。アンヘル滝(Salto Ángel)です。世界一落差の大きい滝(979m)で、テーブルマウンテン(テプイ)の頂上から落下します。コナン・ドイルの小説『失われた世界』のインスピレーションとなり、ピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』の舞台にもなりました。
ちなみに:国名の正式名「ボリバル共和国」
ベネズエラの正式国名について見ていきます。
「República Bolivariana de Venezuela」
1999年、ウーゴ・チャベス大統領が国名を「ベネズエラ・ボリバル共和国」に変更しました。「シモン・ボリバルの理念を継承する共和国」という意味で、チャベスの「ボリバル革命」思想を反映しています。
解放者ボリバルの名前を現代国家の正式名にしたというのは、世界の国旗の中で、現代の指導者が歴史的英雄を国家の名前にした稀な例です(諸説あり、ボリバル革命の評価は分かれます)。
まとめ:ミランダの3色と、ボリバルの星
今回のベネズエラ国旗まとめ。
- 黄・青・赤の横三色+中央の青い帯に8つの白い5角星(弧を描く)
- 1806年3月12日、ハイチのジャクメル港でミランダが新国旗を初掲揚
- 1806年8月3日、ラ・ベラ・デ・コロでベネズエラの土地に初掲揚(国旗の日)
- 設計者はフランシスコ・デ・ミランダ(米独立戦争・フランス革命・南米独立の3大革命を経験)
- 黄=新大陸の富、青=独立とカリブ海、赤=独立闘争の血と勇気(諸説あり)
- 1811年7月5日、ベネズエラ独立宣言、最初は7つの星(独立7州)
- 1817年11月20日、シモン・ボリバルがガイアナ州を加え8番目の星を勅令
- 公式採用は2006年3月12日、ウーゴ・チャベス大統領が189年越しでボリバルの意志を実現
- ベネズエラ・コロンビア・エクアドルは大コロンビア(1819-1831)の3兄弟
- 3国とも黄・青・赤の3色を継承、ボリバルの南米統合の夢の名残
- 国名「ベネズエラ」=イタリア語で「小ヴェネツィア」(1499年アメリゴ・ヴェスプッチ命名)
- 世界最大の原油埋蔵量(約3,000億バレル)
- 1999年ウーゴ・チャベス就任、社会主義政策、2014年以降経済崩壊
- 約700万人が国外流出、南米史上最大の人口流出
- アンヘル滝(落差979m、世界一)の国
- 正式名「ベネズエラ・ボリバル共和国」(1999年-)
ミランダがデザインし、ボリバルが星を加え、200年後にチャベスが完成させた。ベネズエラの国旗は、南米独立の英雄物語の総決算を1枚に込めた、世界で最も英雄的な国旗のひとつです。