緑・白・赤・白・緑の5本の横帯、中央に大きな黄色い星。スリナムの国旗です。南米でもっとも多民族な国で、アフリカ系・インド系・ジャワ系・中国系・ヨーロッパ系・先住民が混在しますが、その旗には「あえてどの民族も特別扱いしない、統一を強調する」という思想が込められています。しかも、独立以前は「5つの星=5つの民族」だったという、過去との対比が見える話です。今回はそんなスリナム国旗の話です。


まずは構成のおさらい

スリナム国旗の構成は、5本の不等幅の横帯です。

  • :緑(2倍幅)
  • その下:白(1倍幅)
  • 中央:赤(4倍幅、最も広い)+大きな黄色い五芒星
  • 下から2番目:白(1倍幅)
  • :緑(2倍幅)

中央の赤が大きく、左右対称に白と緑が広がる構造で、幅比は2:1:4:1:2、合計10になります。

色の意味は、次のとおりです。

  • :進歩、独立闘争
  • :自由と正義、平和
  • :肥沃な大地、希望
  • 黄色い星:統一と輝かしい未来

中央に統一の星、その周りに国の本質を表す色。シンプルなコンセプトの旗です。


1975年11月25日、独立

スリナムが現在の旗を採用したのは、1975年11月25日、オランダからの独立日です。

独立までの長い道のり

スリナムが独立にいたるまでの道のりは、長いものでした。16〜17世紀には先住民の地(アラワク族・カリブ族など)で、1650年にイギリスが入植を開始します。1667年、第二次英蘭戦争後のブレダ条約で、オランダがスリナムを取得しました。イギリスにニューアムステルダム(後のニューヨーク)を譲る代わりだったのです。17〜19世紀はオランダ植民地として、アフリカからの奴隷とインド・ジャワからの契約労働者が導入されました。1954年にオランダ王国内の自治領となり、1975年11月25日に完全独立を果たします。

ニューヨークと交換でオランダ領になった国。これは世界史的にも有名なエピソードです。

独立直前の旗

そして独立に向けて、新国旗のデザインが必要になりました。1975年に全国コンテストが開催され、800件以上の応募があったと伝えられます。匿名審査で、統一性を強調するデザインが選ばれました。

そして1975年11月25日、独立式典で初掲揚されます。同日にジョハン・フェリエ初代大統領が就任しました。


旧旗 ── 「5つの民族の星」

スリナムが現在の旗を採用する前、1959〜1975年の16年間使われていた旗は、まったく違うデザインでした。

1959年、自治領時代の旗

1959年11月15日、スリナム自治政府が制定した旗は、白地の中央に黒い楕円形を置き、その楕円の中に5つの色付きの星が並ぶデザインでした。

設計者はノニ・リヒテフェルト(Noni Lichtveld)というスリナム人芸術家です。

5つの星の意味

5つの星の色は、それぞれスリナムを構成する5つの民族集団を表していました。

星の色民族集団
アフリカ系(マルーン・クレオール)
インド系(ヒンドゥスタニ)
ジャワ系・中国系
先住アメリンド系(アラワク族・カリブ族)
ヨーロッパ系(オランダ系)

5つの主要民族すべてを、星で表現する。多民族国家としての多様性を、率直にデザインに込めた旗でした。

しかし批判が起きた

ところが、この「5つの民族の星」デザインは、批判を受けることになります。「民族の違いを強調しすぎている」「国の統一感が表現されていない」「人を5つに『色分け』する発想は、植民地主義的ではないか」という声が、独立運動が盛り上がるなかで強くなっていきました。

多民族国家であることをどう旗で表現するか。これは多くの旧植民地国が抱える課題でした。スリナムの旧旗は、民族の存在を率直に表現したものの、それゆえに分断を強調する印象になっていたわけです。

独立国家として、民族を超えた「ひとつのスリナム」を表現すべきだ。この声が、新国旗デザインへの転換を後押ししました。


1975年、「1つの星」へ

新国旗で採用されたのは、「5つの星」を1つの大きな黄色い星にまとめるコンセプトでした。

設計思想

新旗のメッセージは、色ごとに明確です。広い中央帯の赤は、すべての民族が協力する「進歩」を表します。左右の細い帯の白は、すべての民族に共通する「自由と正義」を、外側の広い帯の緑は、国土の肥沃さとすべての民族が共有する「土地」を表します。そして大きな1つの星が、民族を超えた「ひとつのスリナム」の団結を象徴します。

民族別の5つの星ではなく、ひとつの大きな星で団結を象徴する。メッセージの転換です。

多様性を認めつつ、共通の未来を強調する。独立後のスリナムの政治哲学が、この旗にそのまま反映されています。

民族構成は変わらない

ただし、実際のスリナムの民族構成は今も多様です。

民族集団割合(2020年代の推計)
インド系(ヒンドゥスタニ)約27%
マルーン(逃亡奴隷の子孫)約22%
クレオール(混血)約16%
ジャワ系約14%
混合・その他約13%
先住アメリンド系約4%
中国系約2%
ヨーロッパ系約1%

1つの星の下に、これだけ多様な民族が暮らす。これが現代スリナムです。世界でもっとも民族多様性の高い国のひとつとして知られています。


オランダ語圏の南米国

スリナムの特殊な事情として、南米で唯一、オランダ語を公用語とする国であることが挙げられます。

公用語

オランダ語は唯一の公用語で、学校教育・政府・メディアで使用されます。実質的な国民共通語はスラナン・トンゴ語で、英語とオランダ語・ポルトガル語などが混じったクレオール語です。そのほか、ヒンドゥスタニ語・ジャワ語・中国語・先住民言語など、多数の言語が話されています。

南米の中で孤立

スリナムは南米にありながら、独特の立場にあります。周辺はスペイン語圏(ベネズエラ・コロンビア・エクアドルなど)とポルトガル語圏(ブラジル)で、スリナムだけがオランダ語圏です。文化・経済もカリブ海・オランダ・インド・インドネシアとのつながりが強くなっています。

南米のなかで、文化的に最も独自。この立場が、国旗の独特な雰囲気にも影響しているかもしれません。


「南米で最小」「世界トップクラスの森林国」

スリナムについて、知っておくと面白い事実があります。

面積と人口

面積は約16万km²で、南米大陸で最小の独立国です(日本の半分弱)。人口は約62万人で、南米でも特に少なくなっています。

国土の93%が熱帯雨林

スリナムは、国土の93%以上が手つかずの熱帯雨林です。ガイアナと並び、世界でもっとも森林率が高い国のひとつです。アマゾン熱帯雨林の北端にあたり、生物多様性ホットスポットでもあります。環境保全の優等生国として国際的に評価されています。

国土の大半が原生林。だからこそ、国旗の緑が「肥沃な大地」を表すのは、決して比喩ではありません。


ちなみに:1980-1990年代の混乱

スリナムは独立後、平穏な歴史を歩んだわけではありません。1980年には、デジ・バウテルセ率いるサージェント・クーデタで軍事政権が成立します。1980年代は内戦と国際的孤立の時代となり、1990年代に民主化への過程を歩みました。

独立後の20年は、なかなか苦しい時代。そういう歴史を持っています。

それでも国旗は変えませんでした。「民族を超えた統一」という1975年の理念は、政治的混乱を経ても揺らがない、ということを示しているのかもしれません。


まとめ:分断より統一を、デザインで選んだ国

今回のスリナム国旗のまとめです。

  • 緑(2)・白(1)・赤(4)・白(1)・緑(2)の5本横帯+中央に大きな黄色い星
  • 1975年11月25日、オランダからの独立日に採用
  • 赤=進歩、白=自由と正義、緑=肥沃な大地、黄色い星=統一と未来
  • 1959〜1975年の旧旗は、5つの色の星(5つの民族)を黒い楕円で結ぶデザイン
  • 旧旗が「民族の違いを強調しすぎる」と批判され、独立時に「ひとつの統一の星」に変更
  • 南米で最小、オランダ語が公用語の唯一の南米国
  • 民族構成はインド系・マルーン・クレオール・ジャワ系など南米でもっとも多様
  • 1667年のブレダ条約でオランダがニューアムステルダム(NY)と交換で取得
  • 1980〜90年代の政治的混乱を経ても、国旗のデザインは変わらず

5つの民族を分けて描いた旗を、1つの統一の星で書き換えた。スリナムの国旗は、多民族国家が国旗で何を表現すべきか、その答えを示した1枚です。