水色・黄・緑の3本の横帯(広い水色+黄+緑)、その右上に金色の太陽。ルワンダの国旗、アフリカ大湖地方の小国の旗です。1994年のルワンダ虐殺の記憶と決別するため、2001年に旗を完全に変更しました。フツ族優位の象徴を捨て、新しい国家を象徴する旗へ。世界の国旗のなかでも、ジェノサイドから立ち直る象徴として制定された1枚です。今回はそんなルワンダ国旗の話です。
まずは構成のおさらい
ルワンダ国旗の構成は、次のとおりです。
- 横3本の帯(上から):水色(広め)・黄・緑
- 比率:2:1:1(水色が他の2倍の幅)
- 右上:金色の太陽(24の光線)
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 水色(広め):幸福、平和、空
- 黄:経済発展、富
- 緑:繁栄の希望、農業、自然
- 金の太陽:国民統一、透明性、ルワンダ国民の啓蒙
虐殺の記憶を超えた明るい未来を象徴するという、国旗デザインの哲学を持つ1枚です。
2001年12月31日 ── 虐殺の記憶からの決別
ルワンダ国旗が、21世紀に劇的な変更を遂げた経緯を見ていきます。
1994年、ルワンダ虐殺
1994年4月から7月にかけて、ルワンダ虐殺が起こりました。フツ族過激派がツチ族と穏健派フツ族を約100万人虐殺した、約100日間のジェノサイドです。人類史上最も急速なジェノサイドのひとつと言われています。
旧国旗
虐殺以前の国旗(1962-2001)は、汎アフリカ色のデザインでした。赤・黄・緑の縦三色で、中央に黒い「R」(Rwanda)の文字が置かれ、赤は独立のために流された血を表していました。
しかし1994年の虐殺後、この旗は「フツ族優位」「虐殺」の象徴とみなされるようになります。虐殺の被害者や遺族にとって、赤い色は加害者を思い出させるものであり、新しい国旗が必要だという声が高まりました。
1999年、変更決定
1999年、ルワンダ愛国戦線(RPF)政権が国旗の変更を発表します。虐殺の記憶と決別し、新しい国家アイデンティティを打ち立てるためでした。
2001年12月31日、新国旗採択
そして2001年12月31日、新国旗が正式に採択されました。虐殺の血を象徴しないよう赤を完全に削除し、水色・黄・緑に太陽を加えた新しいデザインです。ルワンダの芸術家・技術者であるアルフォンス・キリモベネシヨ(Alphonse Kirimobenecyo)の作品が、国民コンテストで選出されました。
赤を意図的に削除した国旗は世界でも珍しく、国旗史のなかで極めて稀です。マラウイやニュージーランド、南アフリカなども21世紀に国旗を変更しましたが、虐殺の記憶を理由とするのはルワンダだけです。
「赤を消した」 ── 世界唯一の理由
ルワンダ国旗の、世界的に独特な選択を見ていきます。
「赤=血」の連想
多くの国旗では、赤は「独立のための血」として誇りのシンボルになっています。ベトナム・中国・北朝鮮では社会主義の赤や革命の血を、フランスやロシアでは革命の血を、そして多くのアフリカ国旗では独立闘争の血を表しています。
しかしルワンダは…
ところがルワンダにとって、赤は1994年虐殺の血を意味します。それは加害者と被害者の両方にとって重い記憶でした。国旗の赤を見るたびに虐殺を思い出してしまうため、国民が癒えるためには赤を捨てる必要があったのです。
心理的・歴史的なトラウマを理由に国旗の色を変えるというのは、世界でルワンダだけが選択した、国旗デザインの哲学です。
「水色+黄+緑」 ── 新しい未来
新国旗の3色の意味を見ていきます。
水色(広い、2倍幅)
水色は国旗の半分を占めます。幸福と平和、そしてルワンダの空を表し、広い水色は広大な平和への願いを込めたものです。
黄
黄は経済発展を表します。金や鉱物資源(コルタンなどのレアメタル)の象徴でもあり、2001年以降のルワンダ経済の急成長を反映しています。
緑
緑は繁栄の希望を表します。「千の丘の国(Land of a Thousand Hills)」と呼ばれる、ルワンダの緑豊かな丘陵をあらわす色です。
虐殺の記憶(赤)から、平和(水色)・発展(黄)・希望(緑)へ、というメッセージが込められています。
金の太陽
そして右上には、24本の光線を持つ金の太陽が描かれています。国民統一、透明性、ルワンダ国民の啓蒙、そして新しい時代の夜明けを象徴します。多くのアフリカ国旗の太陽と同様、アフリカの新時代のシンボルであり、マラウイ・ウガンダ・ナミビアなどと共通する太陽の伝統に連なるものです。
アルフォンス・キリモベネシヨ ── デザイナー
ルワンダ国旗を設計したのは、アルフォンス・キリモベネシヨ(Alphonse Kirimobenecyo)です。
ルワンダの芸術家・技術者
キリモベネシヨは、アーティストでありエンジニアでもあるという二面性を持つ人物でした。彼のデザインが国旗デザインコンテストで優勝し、現在の旗が生まれました。パプアニューギニアのスーザン・カリケ、バルバドスのグラントリー・プレスコッドと並ぶ、国民コンテストで選ばれた国旗デザイナーのひとりです。
ルワンダという国
ルワンダの基本情報です。
- 正式名:ルワンダ共和国(Republic of Rwanda)
- 首都:キガリ(Kigali)
- 面積:約2.6万km²
- 人口:約1,400万人
- 公用語:キニャルワンダ語、英語、フランス語、スワヒリ語(4つの公用語)
- 宗教:キリスト教(約94%、カトリックとプロテスタント)
「千の丘の国」
ルワンダには「Land of a Thousand Hills(千の丘の国)」という伝統的な異名があります。国土が無数の丘陵で覆われていることに由来し、フランス語では「Pays des mille collines」と呼ばれます。緑豊かなアフリカの心臓とも称される国です。
「ルワンダの軌跡」
ルワンダは、21世紀のアフリカで最も急速に発展した国のひとつです。GDP成長率は年平均7-8%にのぼり、首都キガリはアフリカで最も清潔な首都のひとつとされています。女性の議会代表率は世界1位(約60%)で、2008年には世界で最初にプラスチック袋を禁止しました。こうした実績から「アフリカのシンガポール」とも呼ばれています。
国旗の太陽は、ルワンダの新時代の希望を表すというのが、現代の解釈です。
「ジェノサイドの記憶」
しかし、1994年虐殺の記憶は今も深く残っています。キガリ虐殺記念館はユネスコ世界記憶遺産に登録され、毎年4月7日には虐殺記念日「Kwibuka」(「思い出す」の意)が営まれます。当時の国際社会の無関心は、大きな教訓として語り継がれています。
「ポール・カガメ大統領」
現代ルワンダの指導者が、ポール・カガメ大統領(Paul Kagame、2000年-)です。元ルワンダ愛国戦線(RPF)の軍司令官として虐殺を止めた人物ですが、長期政権をめぐっては民主主義への懸念も指摘されています。強い指導者か独裁かについては諸説あります。
国旗の水色は平和を表しますが、現実の政治は複雑だというのが、現代ルワンダの一面です。
ちなみに:「マウンテン・ゴリラ」
ルワンダには、世界的に有名な自然があります。世界最大級のマウンテンゴリラの生息地であり、ヴォルカン国立公園はダイアン・フォッシー(映画『愛は霧のかなたに』)が研究を行った地として知られています。ゴリラ・トレッキングは、世界で最も貴重なエコツーリズムのひとつです。
まとめ:虐殺の記憶を超えた、新しい太陽
今回のルワンダ国旗のまとめです。
- 水色(広め、2倍幅)・黄・緑の横三色に、右上の金の太陽(24光線)
- 2001年12月31日、新国旗を正式採択
- 1999年、ルワンダ愛国戦線(RPF)政権が国旗変更を発表
- 1962-2001年の旧国旗は赤・黄・緑に黒い「R」(汎アフリカ色)
- 旧国旗の赤は1994年虐殺の記憶を強く想起させるため削除
- 世界で唯一、心理的トラウマを理由に国旗の色を変更した国
- デザイナーはアルフォンス・キリモベネシヨ(ルワンダの芸術家・技術者)
- 水色=幸福・平和・空、黄=経済発展・鉱物、緑=希望・千の丘の国
- 金の太陽=国民統一・透明性・啓蒙・新時代の夜明け
- 1994年4月から7月、ルワンダ虐殺で約100万人がジェノサイドの犠牲に
- フツ族過激派がツチ族・穏健派フツ族を約100日間で大量虐殺
- 2000年からポール・カガメ大統領、21世紀のアフリカで最も急成長した国のひとつ
- 「千の丘の国」、首都キガリはアフリカで最も清潔な首都
- 女性の議会代表率は世界1位(約60%)、2008年にプラスチック袋を禁止
- 4つの公用語:キニャルワンダ語・英語・フランス語・スワヒリ語
- マウンテンゴリラの世界最大級の生息地
赤を消して、新しい太陽を。ルワンダの国旗は、ジェノサイドの記憶から脱却するために設計された、21世紀のアフリカ復興の象徴です。