旗が斜めに2分割。上の赤い領域には金色の極楽鳥(アカカザリフウチョウ)、下の黒い領域には白い南十字星。1971年、15歳の女子生徒スーザン・カリケがデザインした、世界で唯一の「未成年がデザインした国旗」がパプアニューギニアの国旗です。しかも、政府が提示したオリジナル案を「気に入らない」として、彼女が独自に書き直したという、世界の国旗のなかでもっとも個人的かつ若々しい誕生エピソードを持つ1枚です。今回はそんなパプアニューギニア国旗の話。


まずは構成のおさらい

パプアニューギニア国旗の構成は、次のとおりです。左上から右下への斜めの分割線で2つに分かれています。

  • 上の三角形(フライ側上):赤+金色の極楽鳥(飛翔の姿)
  • 下の三角形(旗竿側下):黒+白い南十字星(5つの星)

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :伝統的なパプアニューギニアの色、伝統文化、血縁
  • 金(黄):国の天然資源、極楽鳥の色
  • :メラネシア系のパプアニューギニア人(Papua New Guinean、PNG国民)
  • :南十字星の星、純粋さ
  • 極楽鳥:国家のシンボル、独立への飛翔
  • 5つの南十字星:南半球の位置、オセアニア共通シンボル

伝統、民族、自然、オセアニアの位置という4つの要素を、斜めの分割で2領域に込めた、極めて密度の高いデザインです。


15歳のスーザン・カリケ

パプアニューギニア国旗のデザイナーは、スーザン・カリケ(Susan Karike、1956-2017)です。

1971年、15歳の女子生徒

1971年当時、スーザン・カリケは15歳でした。ガルフ州(Gulf Province)の出身で、中央州ユール島のカトリック・ミッション・スクールに女子生徒として通っていました。

国旗デザインの選考委員会

1971年初頭、独立を控えたパプアニューギニアでは、憲法発展選定委員会が全国を巡回していました。委員会は国旗のオリジナル案を持参していました。緑・黄・赤の縦三色(汎アフリカ色風)のデザインです。そして学生たちに「提示された案を、自分の好きな色で塗ってみる」ように依頼し、国民の意見を集める参加型プロセスを進めていました。

「気に入らない」と書き直す

そして、カリケが驚くべき行動に出ます。「この国旗のレイアウトと色は、伝統的に正しくない」と考えた彼女は、提示された案を塗るのを拒否し、自分でゼロから新しい国旗をデザインしたのです。

斜めの分割線を引いて既存の縦帯デザインを破壊し、下の領域を黒く塗って白い南十字星を描き(メラネシア人と南太平洋の位置)、上の領域を赤く塗って金色の極楽鳥を描きました(伝統と国家の誇り)。

政府が提示した案を、15歳の女子生徒が拒否し、自分の案を提出した。これは、世界の国旗誕生のなかで最も若く、最も大胆な行動です。

1971年3月11日、国会で採択

そして、カリケのデザインが選考委員会と国会で評価され、1971年3月11日に正式採択されます。パプアニューギニア議会で承認され、1971年6月24日に新国旗が公式に発効しました。1975年9月16日のパプアニューギニア独立時にも、そのまま継続して使用されています。

カリケのその後

カリケが国旗デザインに対して受け取った報酬は、わずかなものでした。賞金や名誉は最小限で、公的な式典での認知も限られ、長年、彼女のデザインの貢献は十分に評価されませんでした。

しかし2017年5月18日、カリケが61歳で逝去すると、状況が変わります。死後、彼女は国家的に追悼され、首都ポートモレスビーの国立博物館にスーザン・カリケ・ギャラリーが設立されました。「国家のシンボルを作った15歳の少女」として、ようやく正式に評価されたのです。

15歳でデザインし、61歳で逝去した後にようやく国家的に評価された。これは、多くの女性デザイナー・先住民デザイナーに共通する悲しいパターンでもあります。


極楽鳥 ── 国家の象徴

国旗上部に描かれた、金色の極楽鳥を見ていきます。

「Bird of Paradise」

極楽鳥(正式にはアカカザリフウチョウ、学名 Paradisaea raggiana、フウチョウ科)は、ニューギニア島の固有種で、多くの種類が島内に生息しています。世界で最も美しい鳥のひとつとして有名で、金色・赤・青・緑など極彩色の羽を持ち、オスは複雑な求愛ダンスを踊ります。

「Kumul」 ── 国家のシンボル

パプアニューギニアでは、極楽鳥を「クムル(Kumul)」と呼びます。国家の象徴であり、ラグビー代表チーム名も「PNG クムルス」です。国民の誇りとなっています。

国旗の極楽鳥のデザイン

国旗の極楽鳥は、アカカザリフウチョウ(Raggiana Bird-of-Paradise)です。国鳥であり、長く美しい尾羽を持ちます。金色は、極楽鳥の輝く羽の色を表しています。

飛翔する極楽鳥というのは、パプアニューギニアが独立国家として「新しい時代へ飛び立つ」というメッセージです。カリケが意図したシンボリズムでした。


南十字星 ── 南太平洋の位置

国旗下部に描かれた5つの白い星は、南十字星(Southern Cross)です。

オセアニア諸国の共通シンボル

南十字星は、南半球で見える星座です。オーストラリアは5つの星、ニュージーランドは4つの星、サモアは5つの星、パプアニューギニアは5つの星、ブラジルも南十字星の星を旗に描いています。

南太平洋と南半球の共通シンボルとして、国旗の下部に5つの星を配置しています。

「赤+黒」の分割

赤と黒の斜め分割は、カリケの斬新なデザインです。多くのオセアニア旗が「縦帯」または「青地+星」であるのに対し、パプアニューギニアの赤と黒の斜め分割は極めて独自で、「伝統と現代、過去と未来の対比」を表現しています。


パプアニューギニアという国

パプアニューギニアの基本情報です。

  • 正式名:パプアニューギニア独立国(Independent State of Papua New Guinea)
  • 首都:ポートモレスビー(Port Moresby)
  • 面積:約46.3万km²(ニューギニア島東半分+多数の小島)
  • 人口:約1,000万人
  • 公用語:英語、トク・ピシン、ヒリ・モツ(3つの公用語)
  • 宗教:キリスト教(約95%、プロテスタント・カトリック)

「世界一の言語多様性」

パプアニューギニアの最大の特徴は、世界で最も多くの言語を持つ国であることです。約840以上の固有言語があり、世界の言語の約12%がパプアニューギニアに存在します。人口あたりの言語多様性は世界一で(1言語あたり約1.2万人)、隣の村でも言語が違うことが普通です。100以上の言語を持つバヌアツを、さらに上回るのがパプアニューギニアの言語環境です。

「世界で2番目に大きい島」

パプアニューギニアの本土は、ニューギニア島の東半分です。島全体の面積は約78.5万km²で、グリーンランドに次ぐ世界第2位の大きさです。西半分はインドネシア領(西パプア)であり、「1つの島が2つの国に分割される」典型例です(イスパニョーラ島=ハイチ+ドミニカ共和国、と同様)。

「未接触部族」

パプアニューギニアは、世界でも数少ない「未接触部族」が残る地です。山岳奥地には、現代社会と接触したことのない部族が存在し(推定数十部族)、石器時代に近い生活を送っています。言語学者・人類学者が断続的に調査しています。

国旗の極楽鳥=伝統文化を象徴するというシンボルが、世界でも最も古い伝統文化が残る土地を表しています。

「ジャングルと山岳」

パプアニューギニアの国土は、80%以上が熱帯雨林・山岳地帯です。ニューギニア・ハイランドには標高2,000m以上の山岳地が広がり、マウント・ウィルヘルムは4,509mで、ニューギニア島の最高峰です。道路・交通インフラは極めて未発達で、首都ポートモレスビーから山岳地帯へは、ほとんど飛行機のみでの移動になります。


ちなみに:日本とのつながり

パプアニューギニアと日本には、歴史的なつながりがあります。

第二次世界大戦

1942〜1945年、第二次世界大戦中に、日本軍がパプアニューギニアを占領しました。ラバウル(ニューブリテン島)は日本軍の主要拠点となり、ガダルカナル・ニューギニア戦線は太平洋戦争の激戦地となります。日本軍兵士の戦死者は約20万人(推定)にのぼり、その多くは飢餓・病死で、戦死は一部でした。

現代の友好関係

戦後、日本とパプアニューギニアは外交関係を回復しました。日本人慰霊団が定期的にラバウル等を訪問しており、ODAなど経済援助も多く行われています。

国旗の赤=戦士の血というシンボルが、第二次大戦の記憶ともつながる、というのが現代パプアニューギニアの一面です。


まとめ:15歳の少女が、国家のシンボルを変えた

今回のパプアニューギニア国旗まとめ。

  • 左上→右下の斜め分割+上の赤領域(金色の極楽鳥)+下の黒領域(5つの白い南十字星)
  • 1971年3月11日、国会で承認、1971年6月24日に公式発効
  • 1975年9月16日の独立後も継続使用
  • 設計者はスーザン・カリケ(当時15歳の女子生徒、ガルフ州出身、ユール島カトリック学校)
  • 政府が提示した緑・黄・赤の縦三色案を「伝統的に正しくない」と拒否し、独自デザインを提出
  • 赤=伝統文化、黒=メラネシア系国民、金=極楽鳥・天然資源、白=南十字星
  • 極楽鳥(クムル)はパプアニューギニアの国鳥、アカカザリフウチョウ(Raggiana Bird-of-Paradise)
  • 5つの白い星=南十字星、オセアニア共通シンボル
  • カリケは2017年5月、61歳で逝去、死後にようやく国家的に評価
  • ポートモレスビー国立博物館にスーザン・カリケ・ギャラリーがある
  • 約840以上の固有言語、世界一の言語多様性
  • ニューギニア島は世界第2位の島、西半分はインドネシア(西パプア)
  • 国土の80%以上が熱帯雨林・山岳地帯、未接触部族が残る
  • 第二次大戦の激戦地、日本軍戦死者約20万人(推定)
  • 公用語は英語・トク・ピシン・ヒリ・モツの3つ

15歳の少女が、政府の案を拒否して、独自の国旗をデザインした。パプアニューギニアの国旗は、世界で最も若く、最も大胆な発想で生まれた国家のシンボルであり、伝統と独立の両方を1枚に込めた1枚です。