青地に、細い黄色の横線。その下に12の角を持つ白い星。ナウルの国旗、世界で3番目に小さい国の旗です。極めてシンプルなデザインですが、そのなかに「国土の地理的位置」「先住民12部族」「リン鉱石への依存」という3つの情報が圧縮されています。今回はそんなナウル国旗の話。


まずは構成のおさらい

ナウル国旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:ロイヤルブルー
  • 横中央:細い金(黄)色の横線(旗の1/12の幅)
  • 横線の下、旗竿側:白い12角星

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :太平洋
  • 黄色の細線:赤道。ナウルは赤道のすぐ南(南緯約0.5度)に位置する
  • 横線の下の星:ナウルが赤道の南側に位置することを示す
  • 白い12角星:ナウル本島
  • 12の角:ナウルの伝統的な12部族
  • 白色:リン鉱石。ナウルの伝統的主要資源

国旗そのものが地図の役割を果たすという、世界の国旗のなかで最も地理的に正確なデザインのひとつです。


「地図としての国旗」

ナウル国旗の最大の特徴は、国旗を見れば国の位置が分かることです。

国旗=太平洋+赤道+ナウル島

青い背景は太平洋を、横の黄色い線は赤道を、そしてその黄色い線の下の星は、赤道の南に位置するナウル本島を表します。

つまり、太平洋上、赤道のすぐ南にナウルがあるということを、1枚の旗で正確に表現しているのです。

「南緯0.5度」を視覚化

ナウルは南緯約0.5度に位置し、赤道に最も近い独立国家のひとつです。黄色い線(赤道)から、わずかに下に星を配置していて、この距離が地理的な実距離をかなり正確に反映しています。

地球儀上の正確な位置を国旗デザインに直接反映しているというのは、ニュージーランド・ツバル・フィジーなど他の太平洋国の国旗と並ぶ、地理ベースのデザインですが、ナウルが最も明確です。


12の角 ── 12部族

ナウル国旗の星の12角は、ナウルの伝統的な12部族を表します。

ナウルの12部族

ナウル先住民(Nauruan)は、歴史的に次の12の部族で構成されてきました。

  1. デイボエ(Deiboe)
  2. エアムウィ(Eamwi)
  3. エアムウィット(Eamwmwit)
  4. エアモ(Eamo)
  5. エアノ(Eano)
  6. エマンガム(Emangum)
  7. エアムウィダラ(Eamwidara)
  8. ラニボク(Ranibok)
  9. イルワ(Iruwa)
  10. イルツィ(Irutsi)
  11. イウィ(Iwi)
  12. ツィツィ(Tsitsi)

部族名はナウル語の発音とカタカナ転写の関係で史料により表記が異なり、諸説あります。

「12」の意味

ナウル全土の12地区は、12部族の伝統的な居住地にあたります。現代のナウルの行政区分は8地区に再編されていますが、12部族の意識は今も強く残っています。国旗の12角星は、全部族の統一を表すものです。

1つの星に12の角、すなわち1つの国家に12の部族、というシンボリズムで、ナウル人のアイデンティティの根本を表しています。


1968年1月31日 ── 独立とコンテスト

ナウル国旗の誕生をたどってみましょう。

独立への道

ナウルは、長い植民地支配を経験してきました。1888年にドイツ帝国に併合され、1914年には第一次世界大戦でオーストラリア・ニュージーランド・イギリスの連合軍が占領します。1923年にはオーストラリアを中心とする国際連盟委任統治領となり、1942〜1945年には第二次大戦中の日本軍占領を経験しました。戦後の1947年にはオーストラリア・ニュージーランド・イギリスによる国連信託統治領となり、そして1968年1月31日、ナウル共和国として完全独立を達成します。

国旗コンテスト

独立を控えた1967〜1968年、ナウル政府が国旗コンテストを開催しました。応募したのは、ナウル在住のオーストラリア旗製造会社エヴァンス社の社員です。「ナウルの地理+伝統+資源」を1枚に込めるというコンセプトのもとに作られ、完全独立の1968年1月31日と同時に正式国旗となりました。

国旗デザイナーの名前は記録に残っていません。これは多くの小国家の旗に共通する特徴です。ナウルの国旗を作った人はオーストラリア人技師の誰か、という以上のことは、公的記録に残っていません。


ナウルという国 ── 世界第3位の小国

ナウルの基本情報です。

  • 正式名:ナウル共和国(Republic of Nauru)
  • 「首都」:ヤレン(正式な首都ではなく、行政区として機能)
  • 面積:約21km²
  • 人口:約1.2万人
  • 公用語:ナウル語、英語
  • 宗教:キリスト教(プロテスタント・カトリック)

「世界で3番目に小さい国」

ナウルの面積21km²は、世界で3番目に小さい独立国家にあたります。

  1. バチカン市国:約0.49km²
  2. モナコ:約2.02km²
  3. ナウル:約21km²

東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせた面積の2倍程度、というのが、ナウルの大きさのイメージです。

「首都のない国」

ナウルの特徴のひとつは、公式の首都が存在しないことです。大統領官邸・国会・政府機関はヤレン地区にありますが、「首都」という公式の指定はありません。国全体が1つの島で、離島はありません。

公式な首都が定められていない珍しい国のひとつで、独立国としてはナウルのほか、スイスも法律上は首都を指定していないことで知られます。

「世界一GDPが変動した国」

ナウルの経済史は、世界でも極めて特異です。1960〜70年代には、リン鉱石(アルバトロスのフンが化石化したもの)の輸出で、一時的に国民1人当たりGDPが世界第2位(クウェートに次ぐ)となり、「太平洋のクウェート」と呼ばれました。しかし1980〜90年代にはリン鉱石が枯渇して経済が崩壊し、2000年代には国家破産寸前に陥ります。その後は、海外金融としての位置づけや、オーストラリア政府から委託された難民収容所など、特異な収入源で生存をはかってきました。

国土の80%以上が露天掘りによって採掘され、月面のような景観になった、世界でも極めて稀な国というのも、ナウルの不名誉な記録です。


「リン鉱石の島」 ── 国旗の白色の意味

国旗の白い星の色は、リン鉱石(phosphate)を象徴しています。

アルバトロスの遺産

ナウルが世界最大規模のリン鉱石の島になったのには、理由があります。数百万年にわたって海鳥(特にアルバトロス)の糞が島に堆積し、時間の経過で化石化して純度の高いリン鉱石に変化しました。これが農業肥料・洗剤・食品添加物の原料として、世界市場で高値で取引されたのです。

経済への影響

20世紀初頭、ドイツ・オーストラリア・イギリスがリン採掘を開始します。独立後はナウル政府が採掘権を国有化し、その採掘収入で国民は完全無税、無料医療・教育が実現しました。オーストラリアやハワイに豪華な邸宅を持つナウル人もいたほどです。

しかし1990年代以降、鉱床がほぼ枯渇してしまいます。島の中央部は採掘で月面のような景観になり、国土の80%以上が居住不可能となりました。国民の多くは、沿岸部の狭い帯状地域に集中して暮らしています。

国旗の白い星は、国を支えてきた、しかし今は失われたリン鉱石を表すものとなり、現代ナウルの矛盾を象徴しています。


ちなみに:「世界一肥満率の高い国」

ナウルの現代の社会問題のひとつが、世界最高水準の肥満率・糖尿病率です。

「太平洋の肥満危機」

ナウルの成人肥満率は約60〜70%と世界最高水準で、2型糖尿病率も約30〜40%にのぼります。平均寿命は男性58歳、女性65歳と、先進国比でかなり短くなっています。

原因

その原因は、いくつもあります。リン鉱石時代の急激な近代化によって伝統的な漁業・農業が衰退し、スパムやコカコーラ、インスタント麺などの輸入加工食品への依存が進みました。さらに、狭い国土で運動の機会が少ないことも一因です。

急速な経済発展と、その後の崩壊が健康危機を生んだという、ナウルが体現する「リソースの呪い」の典型例です。


まとめ:21km²の島、12の部族、1つの星

今回のナウル国旗まとめ。

  • 青地+細い黄色の横線(赤道)+横線の下の白い12角星
  • 1968年1月31日、独立と同時に正式採択
  • デザイナーはオーストラリア人技師(エヴァンス社員、名前は記録に残っていない)
  • 青=太平洋、黄線=赤道、線の下=赤道の南
  • ナウルは南緯約0.5度、赤道に最も近い独立国家のひとつ
  • 12角星の12=ナウル先住民の伝統的な12部族
  • 白色=リン鉱石(ナウルの主要資源)
  • 国旗そのものが「地理+部族+資源」を視覚化した「地図」として機能
  • ナウルは世界第3位に小さい独立国家(21km²、バチカン・モナコに次ぐ)
  • 公式の首都を持たない国のひとつ(ヤレン地区が事実上の行政中心)
  • 1960-70年代、リン鉱石で一時的に国民1人当たりGDPが世界第2位
  • 1990年代以降、鉱床枯渇で経済崩壊、国土の80%以上が採掘跡で居住不可能
  • 世界最高水準の肥満率・糖尿病率という現代の社会問題

赤道のすぐ南、12部族の星。ナウルの国旗は、21km²の小さな島が、自分たちの位置・歴史・資源を、世界で最もシンプルかつ正確に1枚の旗に込めたという、「地図としての国旗」の代表例です。