緑地に金色の三日月と星、上下に赤い帯。モーリタニアの国旗は、サハラ砂漠の西端のイスラム共和国の旗です。もとは緑地と金月星だけでしたが、2017年の国民投票で「赤い帯」が追加されました。世界で最も新しい国旗変更のひとつです。しかも国民の86%が変更に賛成という、極めて稀な国旗刷新の物語を持つ1枚。今回はそんなモーリタニア国旗の話です。


まずは構成のおさらい

モーリタニア国旗の構成は、次のとおりです(2017年〜)。

  • 上下:赤い帯(細い)
  • 中央:緑
  • 緑の中央:金色の三日月と5角星。三日月が上向き、星はその上

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :イスラム教、希望、繁栄
  • 金色の月と星:イスラム教(トルコ起源の月星ファミリー)
  • :独立闘争で流された血。2017年に追加

緑地イスラム旗の伝統に、独立闘争の血を加える。21世紀のイスラム国旗の進化を示す1枚です。


2017年8月5日 ── 国民投票で旗変更

モーリタニア国旗は、21世紀に劇的な変更を経験しました。

2017年憲法国民投票

2017年8月5日、モーリタニアで憲法国民投票が行われました。複数の憲法改正項目が国民投票にかけられ、その1つが国旗変更だったのです。結果は賛成86.34%、投票率約54%でした。

国民の圧倒的多数で旗を変更する。これは世界の国旗のなかでも稀なことです。国旗変更を否決したニュージーランド(2016年)とは対照的な結果でした。

2017年10月25日、法令で正式制定

2017年10月25日、政令第2017-467号で新国旗が制定されました。そして2017年11月28日の独立記念日に、初めて掲揚されています。

なぜ変更したか

変更を主導したのは、ムハンマド・ウルド・アブドゥルアジーズ大統領(2009-2019)です。

「新しい国旗には、モーリタニア人が独立のために流した血を表す赤を加える」

その理由として、「フランスからの独立(1960年)の犠牲を、もっと明確に表現したい」こと、そして「既存の緑と月星はイスラムの象徴のみで、国家闘争の側面が弱い」ことが挙げられました。

緑と金月星(イスラム的)に、赤い帯(民族的)を加える。それが2017年版の本質です。


「緑地イスラム旗」 ── 伝統的なフォーマット

モーリタニア国旗の基本は、緑地と月星にあります。

緑地イスラム旗

緑地に黄/金の月星というデザインは、イスラム諸国の典型です。

構成
モーリタニア緑地に金月星+赤い帯(2017年-)
パキスタン緑+白縦帯+白月星
トルクメニスタン緑地+カーペット+白月星
アルジェリア白緑+赤月星
マレーシア赤白+黄月星

緑はイスラム教の聖なる色として、多くのイスラム国家の旗に採用されています。

月星の方向

モーリタニア国旗の月星には、特徴があります。三日月は上向き(アップワード)で、祈りの方向を表します。5角星は三日月の開口部の中央に置かれ、トルコ国旗の月星と方向は同じです。

1844年のトルコ国旗の月星伝統が、世界中のイスラム国家に広がった。それが月星ファミリーです。


モーリタニアの独立 ── 1960年

ここからは、モーリタニア国旗の歴史を見ていきます。

フランス領モーリタニア

モーリタニアは、1903年から1960年までフランス領西アフリカの一部でした。サハラ砂漠西端の植民地であり、遊牧民族を中心とした伝統社会でした。

1960年11月28日、独立

1960年11月28日、モーリタニア・イスラム共和国が成立します。初代大統領はモフタール・ウルド・ダッダ。新国旗は緑地と金月星のみ(赤い帯なし)の、シンプルなイスラム旗でした。

2017年、赤帯追加

そして57年後の2017年、赤い帯が追加されます。緑地と金月星は維持したまま、上下に細い赤い帯を加えました。

1960年版から2017年版へ、ほぼ同じデザインに赤帯のみを追加する。最小限の変更でした。


モーリタニアという国

モーリタニアの基本情報です。

  • 正式名:モーリタニア・イスラム共和国(Islamic Republic of Mauritania)
  • 首都:ヌアクショット(Nouakchott)
  • 面積:約103万km²
  • 人口:約470万人
  • 公用語:アラビア語(フランス語も広く使用)
  • 宗教:イスラム教(約100%、スンナ派)

「サハラとアトランティック」

モーリタニアには、地理的な特徴があります。国土の約75%がサハラ砂漠で、西は大西洋、東はマリ・アルジェリア・西サハラに接しています。アフリカとアラブ世界の架け橋ともいえる位置にあります。

「ベルベル+アラブ+アフリカ」

モーリタニアの民族構成は多様です。ハッサーニア(ムーア人、ベルベルとアラブの混血)が約30%(ベイダーン、白いムーア人)、ハラティーン(黒いムーア人、解放奴隷の子孫)が約40%、ソニンケ・フラニ・ウォロフ(黒人系)が約30%です。

アラブ世界とサブサハラ・アフリカの境界。それがモーリタニアの位置づけです。

「最後の奴隷制廃止国」

モーリタニアには、世界的に最も悲しい記録があります。1981年、世界で最後に奴隷制を法律で廃止した国となり、2007年には奴隷制を犯罪として刑事罰の対象としました。しかし現在も、約9万人(人口の2%)が現代的奴隷制下にあるとされます(グローバル・スレーバリー・インデックス、諸説あり)。

国旗の白は平和を表しますが、現実はそれと異なる面もある。現代モーリタニアの暗い側面です(諸説あり)。

「鉄鉱石列車」

モーリタニアには、世界的に有名な現代の風景があります。SNIM鉄道です。世界最長級の列車(最大3km以上、200両以上)で、ズエラートからヌアディブ港まで、サハラ砂漠を約700km走ります。運ぶのは鉄鉱石で、これはモーリタニアの主要輸出品です。観光客が屋根に乗って旅行する「鉄道の上の冒険」としても知られています。

国旗の緑(イスラム)に赤(独立の血)、金(月星)。しかし経済を支えるのは鉄鉱石。それが現代モーリタニアです。


ちなみに:「ローマ帝国の旧モーリタニア」

国名「モーリタニア」は、古代ローマ時代の地名に由来します。

古代モーリタニア

古代モーリタニア(Mauretania)は、ローマ帝国時代の北アフリカの属州でした。現在のモロッコ・アルジェリア北部にあたり、ベルベル人のマウリ族(Mauri)の地でした。「Mauritania」は「マウリ人の地」を意味します。

現代モーリタニアとの関係

ただし、現代モーリタニアは古代モーリタニアの南に位置します。古代モーリタニアの南方の地域に、19世紀のフランスが命名したもので、実際にはマウリ人の歴史的領土ではありません。

ヨーロッパ人による誤った命名が、現代の国名に残った。これはナイジェリア・ニジェール・ベナンなどと並ぶ、植民地時代の命名です。


まとめ:57年後の赤帯、緑のイスラム旗

今回のモーリタニア国旗のまとめです。

  • 緑地に金色の月と星、上下に赤い帯
  • 2017年8月5日、憲法国民投票で86.34%が変更に賛成
  • 2017年10月25日に政令で正式制定、11月28日(独立記念日)に初掲揚
  • 1960年11月28日の独立時の国旗(緑地+金月星のみ)に赤い帯を追加
  • 緑はイスラム教・希望、金月星はイスラム教、赤は独立闘争の血
  • ムハンマド・ウルド・アブドゥルアジーズ大統領(2009-2019)の主導
  • 1903-1960年はフランス領モーリタニア
  • 緑地イスラム旗ファミリー(パキスタン・トルクメニスタン・アルジェリアなど)の一員
  • 月星はトルコ国旗起源の伝統的シンボルで、上向き
  • 国土の約75%がサハラ砂漠で、東西を結ぶサハラの国
  • 民族はハッサーニア(ムーア人)・ハラティーン(黒いムーア人)・サブサハラ系
  • 1981年、世界で最後に奴隷制を法律で廃止
  • 2007年、奴隷制を刑事罰の対象に(しかし現代的奴隷制は残る、諸説あり)
  • SNIM鉄道は世界最長級の鉄鉱石列車(200両以上、屋根に乗る冒険観光)
  • 国名は古代ローマ時代の「マウリ人の地」から(実際の歴史地域とは異なる)

57年を経て、独立の血の色を追加する。モーリタニアの国旗は、21世紀のイスラム国家のアイデンティティ進化を、赤い帯1本で表現した1枚です。