赤い空に黄金色のグンカンドリと太陽、青い海に3本の白い波。まるで風景画のように絵画的、それがキリバスの国旗です。シンボル数が多いのに、デザインとしてはものすごく完成度が高い1枚。今回はそんなキリバス国旗の話です。


まずは構成のおさらい

キリバス国旗は、文字通り「絵」のように構成されています。

上半分の赤い空には、次のシンボルが描かれています。

  • 赤い背景:朝焼け、あるいは夕焼けの空
  • 太陽:17本の光線を持つ金色の太陽
  • グンカンドリ:太陽の上を飛ぶ黄金色の鳥

下半分の青い海には、次のものが描かれています。

  • 青い背景:太平洋
  • 3本の白い波線:波が打ち寄せる海

風景画にすると、金色の朝陽が水平線から昇り、その光に照らされて、グンカンドリが太平洋の上を舞う、という光景です。太平洋の島の生活そのままの光景が描かれた1枚で、シンボルは多数でも、全体としてひとつの絵に見える見事な構図です。


「17本の光線」は16の島+1

太陽の光線をよく数えてみると、ちょうど17本あります。これにも意味があります。

16本がギルバート諸島を構成する16の島を、残りの1本がバナバ島(旧名オーシャン島)を表しています。つまり「16のギルバート諸島+バナバ島=17の主要な島」を、太陽の光線の数で表しているわけです。

ちなみにキリバスは太平洋に33の島を持ちますが、そのうちの主要な島がこの17。残りの島はフェニックス諸島(8島)とライン諸島(8島)に含まれ、これは下半分の波線で表現されています。


「3本の波」は3つの諸島群

旗の下半分の白い波線は、よく見ると3本あります。これも単なる装飾ではありません。

波線諸島群島の数
1本目ギルバート諸島16+バナバ
2本目フェニックス諸島8
3本目ライン諸島8

太平洋を3本の波で表しつつ、その波1本ずつが3つの諸島群を象徴する、というダブルミーニングです。1つのシンボルで2つの意味を持たせる、なかなか緻密な設計です。

ちなみにキリバスの国土の総面積はたった811平方キロメートル(東京23区くらい)ですが、海域(EEZ)は350万平方キロメートルと、国土の4,300倍以上もある、超「海の国」。「水と島」が国の本質であるということが、旗の下半分の青と波線で表現されているわけです。


グンカンドリ:太平洋を飛び続ける鳥

旗の中央上部で翼を広げるグンカンドリ(frigatebird、フリゲートバード)は、太平洋の島々で広く敬意を集める鳥です。

グンカンドリの特徴

グンカンドリは、翼を広げると2m以上になる、海鳥のなかでも特大級の鳥です。空中で休息することができ、数週間連続で飛行することもあります。海面ぎりぎりを飛んで魚を捕り、他の鳥が捕った魚を空中で奪うこともあるため、"man-o'-war" バードとも呼ばれます。羽が水を弾かないため海に降りられず、常に飛ぶか、岸に止まるしかありません。

ずっと飛び続けて海の上で生きる鳥。これは、キリバスの人々の海洋民族としてのアイデンティティと、ものすごくよく重なるイメージです。

文化的な意味

キリバスでは、グンカンドリは「海を支配する力」「自由」「優雅さ」の象徴です。伝統的なキリバス舞踊にはグンカンドリの飛ぶ姿を真似た動きがあり、文化のなかでも特別な位置を占める鳥なんです。

鳥そのものが国の精神を表す。国旗のシンボルとしてこれ以上ふさわしいものはない、と言えます。


デザインの原型は、植民地時代の1937年

ちょっと意外な事実なんですが、キリバス国旗のデザインは、独立よりずっと前から存在していました。

1931年、まだイギリス植民地のギルバート&エリス諸島だった時代に、サー・アーサー・グリンブルという人物が、植民地の紋章としてこのデザインを考案します。1937年に正式承認され、英国本土の旗にこの紋章をつけたものが、植民地時代のキリバスの旗として使われていました。

つまり「赤い空+金のグンカンドリと太陽+青い海+3本の波」という基本デザインは、90年以上前から続いているんです。

そして1979年7月12日、キリバスがイギリスから独立したとき、ユニオンジャックを外して、純粋にこのデザインだけを国旗とすることになりました。

植民地のシンボルが、そのまま独立国の旗になった。変な話のようですが、デザイン自体が「キリバスの自然と文化そのもの」だったため、植民地時代から残すことに国民が同意した、というかたちです。


ロンドンの修正案を、住民が「却下」した話

ここがちょっと面白いエピソードなんですが、独立に伴う国旗デザインの最終調整で、ロンドンの紋章院が修正案を出していました。

ロンドンの提案は、鳥と太陽を大きくし、波の領域を小さくして、より「視認性」を高める、というものでした。

これに対して、キリバスの住民は強く反対します。我々の旗のオリジナルのバランスが好きだ、鳥や太陽は今のサイズでいい、海の領域が小さくなるのは嫌だ、というわけです。

結果として、ロンドンの提案は採用されず、住民の好む元のデザインに近い形で国旗が確定しました。植民地時代の宗主国の意見を、独立国民が公然と却下した、独立直前のなかなか象徴的な出来事です。


「キリバス」って、実は「ギルバート」

最後にひとつ、キリバスのユニークな話を。

国名「Kiribati」は、英語の「Gilberts(ギルバート諸島)」をキリバス語(ギルバート語)に音写したものです。キリバス語の発音規則だと、「Gilbert」を発音すると「Kiribas」になり、これをローマ字で書くと「Kiribati」になります。

つまり「キリバス」は「キリバティ」ではなく、本来「キリバス」と読むのが正しいのです。キリバス語の「ti」は「ス」または「シ」に近い無声摩擦音(厳密には日本語の「ス」と「シ」の中間の音)で発音されるルールがあり、ネイティブが言うと「キリバシ」のようにも聞こえます。日本の外務省は「キリバス」表記で統一しています。

国の名前そのものが、英語名(Gilberts)を現地語で発音し直しただけ。独立国家としてのアイデンティティを、国名の発音から取り戻した、という静かなメッセージがここにあります。


ちなみに:世界で唯一「4つの半球すべてにある国」

キリバスは地理的にもめちゃくちゃ特殊で、世界で唯一、北半球・南半球・東半球・西半球の4つの半球すべてに領土を持つ国です。赤道が国土の真ん中を通るため北半球と南半球にまたがり、180度経線(日付変更線)が国土を貫くため東半球と西半球にもまたがっています。

そして1995年、キリバス政府は「国内で日付がずれているのは不便だ」として、日付変更線をキリバス全域の東に押し出しました。その結果、「世界で最も早く新しい日を迎える国」になっています。毎年1月1日、ニュースで「世界で最初に新年を迎えた国」として登場するのが、キリバスのキリスマス島(Kiritimati)です。

赤道直下、地球の真ん中を東西に貫く。国旗の太陽と海の構図には、こうした地理的な特異性も込められているわけです。


まとめ:太平洋の物語を、絵にした旗

今回のキリバス国旗のまとめです。

  • 上半分が赤地に金のグンカンドリと17本光線の太陽、下半分が青地に3本の白い波線
  • 17本の光線は16のギルバート諸島とバナバ島を表す
  • 3本の波は太平洋と3つの諸島群(ギルバート・フェニックス・ライン)を表す
  • グンカンドリは海への支配と自由、キリバス文化の象徴
  • 1937年、植民地時代に英国のサー・アーサー・グリンブルが紋章として制定
  • 1979年7月12日、独立とともに国旗化(ロンドンの修正提案は住民が却下)
  • 「Kiribati」は英語の「Gilberts」を現地語で音写したもの、発音は「キリバス」
  • 北・南・東・西の4つの半球すべてに領土を持つ唯一の国

鳥と太陽と海の絵が、そのまま国旗になっている。キリバスの国旗は、国の自然・文化・歴史を風景画のように1枚にまとめた、世界の旗のなかでもとくに絵画的な1枚です。