ターコイズブルーの空に、金色の太陽と、翼を広げて舞う黄金の鷲。カザフスタンの国旗は、「美しい国旗ランキング」の常連に入る、ものすごく絵になる1枚です。しかも描かれている鷲は、4,000年前から続く鷹狩りの鷲。草原の遊牧民の伝統が、いまもそのまま国旗に飛んでいます。今回はそんなカザフスタン国旗の話です。
まずは構成のおさらい
カザフスタン国旗は、ぱっと見シンプルですが、よく見ると要素が多い旗です。構成は次のとおりです。
- 背景:ターコイズブルー(鮮やかな水色)
- 中央上部:金色の太陽(光線が32本)
- 太陽の下:翼を広げて舞う、金色のステップ・イーグル(草原の鷲)
- 旗竿側(左端):コシュカル・ムイズ(羊の角)の伝統文様が縦に走る金色の装飾帯
要素は4つもあり、汎アラブや汎アフリカの色名のような「色だけで国を表す」シンプル路線とは真逆の、民族の文化と歴史を絵で見せるタイプの国旗です。
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- ターコイズブルー:テュルク系民族の宗教的に重要な色(青い空=崇拝の対象)、平和、民族の団結
- 金色の太陽:生命、豊穣、富。光線は穀物の穂をモチーフにしている
- 32本の光線:テュルク系の32の民族を表す
- 鷲:自由、力、勇気、そして4,000年以上続く鷹狩りの伝統
- コシュカル・ムイズ:カザフ伝統工芸の基本文様
草原の遊牧文化を、絵柄でそのまま国旗にしたという、ものすごく個性が強いデザインです。
1991年独立、1992年に新国旗
カザフスタンがソビエト連邦から独立したのは、1991年12月16日。ソ連を構成していた共和国のなかでも、いちばん最後に独立を宣言した国です(同月25日のソ連解体直前でした)。
そこから新国旗のデザインへと進みます。1992年初頭、政府が国民から国旗デザインを公募し、集まった応募作は1,000件以上にのぼりました。
そのなかから選ばれたのが、当時54歳だった画家シャケン・ニヤズベコフ(Shaken Niyazbekov、1938-2014)の作品でした。
ニヤズベコフはソ連時代から活動していたカザフ人の芸術家で、「カザフの伝統文化を、現代に蘇らせる」ことをライフワークにしていた人物です。彼が描いた金色の太陽と鷲、コシュカル・ムイズのデザインは、カザフの遊牧民としてのルーツを、ひとつのキャンバスに凝縮するものでした。
1992年6月4日、議会で正式採用されます。独立からわずか半年で、新国家のアイデンティティを完成形で示したわけです。
4,000年続く「鷲との伝統」
カザフスタン国旗のもっとも印象的な要素は、中央下部で翼を広げて舞う黄金の鷲です。
これはただの装飾ではなく、カザフの遊牧民にとって最も重要な動物のひとつであるベルクト(クロイヌワシ)を象徴しています。
鷹狩り「ベルクトチー」の伝統
カザフでは古来、鷹狩り(カザフ語で「ベルクトチー」)が男性の名誉ある技として受け継がれてきました。生後数ヶ月のクロイヌワシのヒナを岩場から拾ってきて、何年もかけて訓練し、狩りのパートナーとして育てるのです。この狩猟技術は、考古学的な証拠から4,000年以上前にまで遡れる、と言われています。
訓練された鷲は、狐や野ウサギ、場合によってはオオカミまでを捕らえることができる、まさに「空の狩猟者」です。冬の厳しい草原で生きる遊牧民にとって、ベルクトチーは生存のための技術でもあり、文化的アイデンティティの中心でもありました。
現代でも、カザフスタンの草原地帯で鷲を肩にとまらせる男性(ベルクトチー)の姿は、観光ポスターやドキュメンタリーでよく見られる風景です。4,000年の伝統が現役で生きている、世界でも稀な文化なのです。
「飛ぶ鷲」のポーズ
ニヤズベコフが旗に描いた鷲は、翼を上向きに広げて、太陽の方向に向かって舞い上がるポーズをとっています。「未来に向かって飛ぶ国家」のメタファーとして、これ以上ない動的な構図です。
「32本の光線」には、二重の意味がある
太陽の光線をよく数えてみると、32本あります。これにも意味があります。
第一の意味:穀物の穂=豊穣と団結
ニヤズベコフ自身と政府公式の説明では、光線の形は穀物(小麦)の穂を抽象化したものです。国の富、豊穣、そして全国民の団結を象徴している、というのが第一義です。草原で生まれた遊牧国家が、農業国家としても豊かに育っていくという、現代カザフスタンの自画像というわけです。
第二の意味:テュルク32民族
そのうえで、32という数字は、テュルク系の32の主要民族を表すとも語られます。代表的なテュルク系民族には、カザフ(カザフスタン)、ウズベク(ウズベキスタン)、トルコ人(トルコ)、アゼルバイジャン人(アゼルバイジャン)、キルギス(キルギス)、トルクメン(トルクメニスタン)、そしてタタール、バシキール、ウイグル、ヤクートなどがいます。
実はテュルク系民族のシンボルとして「8民族」を表すアゼルバイジャン国旗の八角星もあるのですが、カザフはそれより範囲を広げて「すべてのテュルク系民族」を意識した、という解釈ができます。
穀物の穂(豊穣)でもあり、テュルク32民族(団結)でもある。同じ32本に、農業国家としての未来と、遊牧テュルク世界の中心としての自負が、両方畳み込まれているわけです。
「コシュカル・ムイズ」(羊の角)の文様
旗の左端、旗竿側に走る縦の金色の帯。これはコシュカル・ムイズ(Қошқар мүйіз、「雄羊の角」の意)と呼ばれる、カザフを代表する伝統文様です。
羊の角がカールしている形をモチーフにしたこの文様は、カザフの工芸品全般に登場します。ユルト(移動式テント)の装飾、ペンダント・ジュエリー、絨毯(シルダクなど)、刺繍、建築の装飾など、生活のあらゆる場面に現れる、文字通り国を代表するパターンです。
なぜ羊の角なのでしょうか。遊牧民にとって羊は生活そのものでした。食料・衣料・住居(フェルト)・燃料(糞)まで提供する、もっとも重要な家畜だったのです。「羊なしには遊牧民の生活は成り立たない」、そのことを抽象化したのが、この文様です。
国旗の縁取りにこの文様を入れることで、現代の国家であると同時に、遊牧文化のルーツを忘れていないという宣言になっているわけです。
「世界で美しい国旗ランキング」の常連
カザフスタンの国旗は、世界の旗章学コミュニティで「美しい国旗」として高く評価されています。評価されるポイントは、ターコイズと金のコントラストによる配色の鮮やかさ、太陽・鷲・文様の配置が崩れない要素のバランス、4つの要素すべてに具体的な意味を持たせた文化的密度、そして他の国旗と完全に区別できるオリジナリティです。
各種「世界の美しい国旗ランキング」では、ほぼ毎回上位に登場します。シンプルさではなく、絵としての完成度で評価されている1枚、と言えるかもしれません。
まとめ:草原と空を、そのまま旗に切り取った
今回のカザフスタン国旗のまとめです。
- ターコイズブルー地+中央上部に32本光線の金の太陽+下に翼を広げる金色のステップ・イーグル+旗竿側にコシュカル・ムイズ文様
- 1991年12月16日にソ連から独立、1992年6月4日に新国旗採用
- デザイナーはカザフ人画家シャケン・ニヤズベコフ、1,000件以上の応募から選定
- 太陽の光線は穀物(小麦)の穂で豊穣・団結を表す(第一義)。32本という数字はテュルク系の32民族も意味する(第二義)
- 鷲は4,000年以上続くカザフの鷹狩り文化(ベルクトチー)の象徴で、自由と力を表す
- ターコイズはテュルク系民族にとって神聖な色(青い空)
- コシュカル・ムイズは「羊の角」を表す伝統文様で、遊牧民の生活そのものを抽象化している
遊牧民の4,000年の文化を、現代国家の旗にそのまま乗せた。カザフスタンの国旗は、民族の歴史と現代の国家が見事に融合した、世界でも屈指のデザインです。