白地に赤い斜め十字(サルタイア)、上部に3頭のヒョウと金のプランタジネット王冠の紋章。ジャージーの旗、英仏海峡のチャネル諸島にあるイギリス王室属領の旗です。ガーンジーと並ぶチャネル諸島の主要島で、赤い斜め十字はかつて中立の象徴でした。独特の歴史を持つ1枚です。今回はそんなジャージー旗の話です。
まずは構成のおさらい
ジャージー旗の構成は、次のとおりです。
- 背景:白
- 赤いサルタイア:斜め十字(X字)
- 上部(旗竿側上):ジャージー紋章(3頭のヒョウ+プランタジネット王冠)
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 赤い斜め十字:ジャージーの伝統であり、中立の象徴
- 3頭のヒョウ:イングランドの紋章
- プランタジネット王冠:プランタジネット朝への忠誠、ノルマン公国・イギリス王室とのつながり
ガーンジーが聖ジョージ十字(縦横の十字)であるのに対し、ジャージーは斜め十字。これがチャネル諸島2島の対比です。
「赤い斜め十字」 ── 中立の象徴
ジャージー旗の、最も興味深い歴史を見ていきます。
聖アンドリュー十字に似た形
ジャージーの赤い斜め十字は、スコットランドの聖アンドリュー十字(青地に白の斜め十字)と同じ「斜め十字」の形をしています。ただしジャージーは白地に赤で、そのため「赤い聖アンドリュー十字」とも呼ばれました。
英仏戦争での中立
そしてこの旗は、英仏戦争時代の中立の象徴でもありました。1906年のジャージー執行官の手紙には、赤い斜め十字は英仏戦争時にチャネル諸島の中立を示すために使われた、と記されています。イングランドとフランスの間で、中立を表す旗だったのです。
第二次大戦のナチス占領
そして第二次大戦中、1940年から1945年にかけて、ナチス・ドイツがチャネル諸島を占領しました。ガーンジー同様、ジャージーも占領され、このときも赤い斜め十字が中立の意味で使用されました。戦争のなかで中立を示す旗。これがジャージーの斜め十字の起源です。
起源は諸説あり
ただし、赤い斜め十字の本当の起源は分かっていません。フランス海軍の海図では1783年以前からジャージーが赤い斜め十字を使用しており、ノルマン公国時代からの伝統だという説や、聖パトリック十字の誤用だという説など、諸説あります。
1981年4月7日 ── 紋章の追加
ジャージー旗の、現代の正式化を見ていきます。
1979-1981年、王冠と紋章を追加
長年、ジャージーは無地の赤い斜め十字を非公式に使用してきました。しかし他の旗と区別がつかないという問題がありました。そこで1979年6月12日、ジャージー議会が紋章の追加を決定します。3頭のヒョウとプランタジネット王冠を上部に加えることになり、1980年12月10日にエリザベス2世が公布、1981年4月7日に新しい旗が初めて掲揚されました。スポーツ大会での混同を解決した1985年のガーンジーと並ぶ、1980年代のチャネル諸島旗の整備です。
プランタジネット王冠 ── イングランドへの忠誠
ジャージー紋章の王冠を見ていきます。
プランタジネット朝
プランタジネット朝(Plantagenet、1154-1485年)は、中世イングランドの王朝です。ヘンリー2世からリチャード3世まで続き、ノルマン公国とイングランドを統治しました。ジャージーは、そのノルマン公国の一部でした。
「3頭のヒョウ」
3頭のヒョウは、イングランド王室の紋章です。イングランドの伝統的な紋章であり、ジャージーがイングランド王(=ノルマン公爵)へ忠誠を誓っていたことを示します。ウィリアム征服王の金十字を掲げるガーンジーと同じく、ノルマン公国の遺産だといえます。
ジャージーという領土
ジャージーの基本情報です。
- 正式名:ジャージー行政区(Bailiwick of Jersey)
- 首都:セント・ヘリア(Saint Helier)
- 面積:約119km²
- 人口:約10万人
- 公用語:英語・フランス語(伝統的に)、ジャージー・フランス語(Jèrriais、消滅危機)
- 法的地位:イギリスの王室属領(英連邦ではない)
「チャネル諸島最大の島」
ジャージーは、チャネル諸島で最大の島です。チャネル諸島はガーンジー行政区とジャージー行政区の2つからなり、そのなかでジャージーが最大です。フランスのノルマンディー海岸から約20kmの距離にあります。
「王室属領」
ジャージーは、ガーンジーやマン島と並ぶ王室属領です。イギリスの一部ではなく、英連邦の構成国でもありません。しかしイギリス王を君主としており、独特の憲法的地位を持っています。
「タックスヘイブン」
ジャージーは、オフショア金融の中心でもあります。無税・低税の制度のもとで国際金融や信託業が栄え、GDPの大半を金融業が占めています。
「ジャージー牛」
ジャージーには、世界的に有名な産物があります。ジャージー牛(Jersey cattle)です。乳脂肪分の高い牛乳で知られる乳牛で、ジャージー島原産でありながら、いまや世界中で飼育されています。
「ジャージー=編み物」
そしてジャージーには、意外な語源もあります。編み物の生地を指す「ジャージー」は、ジャージー島の伝統的なニット産業に由来します。セーターやスポーツのユニフォームの「ジャージー」も、同じ語源です。島の名前が、世界中の衣類の名前になっているのは興味深い事実です。
まとめ:中立の斜め十字、プランタジネットの王冠
今回のジャージー旗のまとめです。
- 白地に赤い斜め十字(サルタイア)、上部に紋章(3頭のヒョウ+プランタジネット王冠)
- 1979年6月12日、ジャージー議会が紋章追加を決定
- 1980年12月10日エリザベス2世公布、1981年4月7日初掲揚
- 長年、無地の赤い斜め十字を非公式使用(他の旗との区別のため紋章追加)
- 赤い斜め十字は中立の象徴(英仏戦争時、チャネル諸島の中立を示す)
- 「赤い聖アンドリュー十字」とも呼ばれた
- 第二次大戦のナチス占領時にも使用
- 起源は諸説あり(フランス海図では1783年以前から使用)
- 3頭のヒョウはイングランド紋章、プランタジネット王冠はイングランド・ノルマン公国への忠誠
- ガーンジーと並ぶチャネル諸島の主要島、最大の島
- 王室属領(ガーンジー・マン島と並ぶ)、英連邦の構成国ではない
- タックスヘイブン、面積約119km²、人口約10万人
- ジャージー牛(乳牛)、衣類の「ジャージー」の語源
戦争のなかで中立を示した、赤い斜め十字。ジャージーの旗は、ガーンジーと対をなすチャネル諸島の旗であり、ノルマン公国の遺産と中立の歴史を持つ1枚です。