白地に2本の青いライン、その間にダビデの星。シンプルだけど一目でそれとわかる、イスラエルの国旗です。この旗の青と白は、じつは「あるユダヤ人男性が、自分の祈りのショールを掲げて思いついた」という、けっこうドラマチックな由来があるんです。今回はその話です。


まずは構成のおさらい

イスラエル国旗の構成はとてもシンプルです。白地に、上下1本ずつ計2本の青い横ラインが入り、中央に青いダビデの星(六芒星)が描かれています。

線も星も、色は同じダークブルーで統一されています。色数は青と白の2色だけです。このデザインは特定の宗教用品にそっくりなのですが、それがこの旗の発想の原点になっています。


「タリート」という祈りのショール

ユダヤ教にはタリート(tallit)という、礼拝の際に身につける祈りのショールがあります。シナゴーグで男性が肩にかけている、白地に青いラインの入った布。あれです。

タリートのデザインはほぼ決まっていて、地は白、両端や中央に青い横ラインが入るという構成です。何百年も前から、ユダヤ教徒の祈りに欠かせない宗教用品です。

イスラエル国旗の白と青のラインは、このタリートをそのまま旗にしたもの。それが、デザインの根本にある発想です。


1897年バーゼル、ある男が「タリートを掲げた」

イスラエル国旗のデザインが生まれたのは、1897年8月、スイス・バーゼルで開かれた第1回シオニスト会議でのことです。

会議では「ユダヤ人の国を再建する」というシオニズム運動の方向性が議論されていましたが、シンボルとなる旗をどうしようという話にもなっていました。あれこれと候補が議論されるなか、リトアニア出身の実業家ダヴィッド・ウォルフゾーン(David Wolffsohn)が立ち上がります。

そして自分が身につけていたタリートを取り出し、頭上に掲げ、「なぜ我々は探す必要があるのか。ここに我々の旗がある」と言ったと伝えられています。

会場にいたユダヤ人の代表たちは、これに強い感銘を受け、タリートをそのまま旗のベースに採用することを決定しました。みんなが毎日身につけているこのデザインを、そのまま我々の旗にしようというロジックです。

宗教用品が、そのまま民族の象徴になりました。探さなくていい、もう持っているという発想がドラマチックです。


タリートの青には、もうひとつ深い由来がある

タリートの青のラインには、さらに古い由来があります。

ユダヤ教の聖典トーラーには、タリートの房飾り(ツィツィット)に「テヘレット(techelet)」という青い色で染めた糸を1本入れるように、と書かれています。

このテヘレットは、ヒラゾン(chilazon)という海の生物から採れる青い染料で作られていました。古代イスラエルでは非常に貴重とされ、王族や祭司の衣装にも使われていた色です。

つまりタリートの青は、トーラーに記された神聖な色であり、海から採れる古代の染料であり、王族や祭司の伝統的な色でもあるという、いくつもの宗教的・歴史的レイヤーを背負っている色なんです。

近世になると染料の作り方が一度失われ、現在のタリートの青はインジゴ系で代用されていますが、青が神聖という観念は今も生きています。イスラエル国旗の青は、その何重もの歴史を引き継いでいる、ということです。


ダビデの星のほうも、歴史が深い

旗の中央にあるダビデの星(マゲン・ダヴィド)は、上向きと下向きの三角形を組み合わせた六芒星です。

このシンボルが、じつはユダヤ民族の象徴として定着したのは比較的遅く、17世紀ごろからと言われています。それ以前は他の文化(イスラム圏のお守りなど)でも使われていた一般的な記号でしたが、17世紀のヨーロッパで「ユダヤ人街の標識」として広く使われるようになり、徐々にユダヤ民族のシンボルとして定着していきました。

1897年の第1回シオニスト会議で、ダビデの星をユダヤ運動の公式シンボルにすることが決議され、これが現在のイスラエル国旗まで受け継がれている、という流れです。


1948年、ようやく「国の旗」になる

シオニスト会議の旗が、実際にイスラエルという国の国旗となったのは、それから51年後の1948年でした。

1948年5月14日、テルアビブでイスラエル建国が宣言されます。その後、1948年10月28日、暫定国家評議会が全会一致でこの旗を国旗として正式に採択しました。シオニスト運動の旗が、半世紀の時を経て、国家の旗へと格上げされたわけです。

ちなみに国旗のサイズや比率は法律で細かく定められていて、縦横比は8:11です。少し横長で、ダビデの星の大きさも厳密に決められています。


まとめ:祈りの布が、そのまま国の象徴になった

今回のイスラエル国旗のまとめです。

  • 白地に上下2本の青いライン、中央にダビデの星
  • デザインはタリート(ユダヤ教の祈りのショール)に由来
  • 1897年バーゼルの第1回シオニスト会議で、ダヴィッド・ウォルフゾーンが「探す必要はない、ここにある」と自分のタリートを掲げて提案
  • タリートの青はトーラーが命じた「テヘレット」(海の生物ヒラゾンから採れた古代の青染料)に由来
  • ダビデの星は17世紀以降ユダヤ民族の象徴として定着、1897年会議で公式採用
  • 1948年5月14日のイスラエル建国宣言を経て、10月28日に国旗として正式採択
  • 縦横比は8:11

日々身につけている宗教用品が、そのまま国旗のベースになった。イスラエルの旗は、民族の生活そのものが象徴になっている、世界でもちょっと珍しい1枚です。