緑・白・橙の縦三色旗。シンプルでおぼえやすいデザインですよね。でもこの旗、調べてみると「えっ、そんなに細かいの?」というルールや事件がぼろぼろ出てきます。なかでも「橙を金と呼ぶのは積極的にやめさせるべき」って首相府が公式に言っているの、ちょっとすごくないですか?
3色の意味は「対立」と「和解」
アイルランド国旗の縦三色には、それぞれちゃんと意味があります。
- 緑:カトリック教徒(伝統的なアイルランド人)
- 橙:プロテスタント教徒(ウィリアム3世の流れを汲むイギリス系住民)
- 白:両者の永続的な和解(lasting truce)
つまり「分断する2つのコミュニティを、白い停戦の旗で結ぶ」というメッセージが込められた旗なんです。デザインがシンプルなのに、ものすごく踏み込んだ意味を持っている。
旗を初めて披露した独立運動家トマス・フランシス・ミーアは、「この旗のもとで、アイルランドのプロテスタントとカトリックの手が、寛大で勇敢な兄弟愛のうちに結ばれることを願う」と語った、と伝えられています。
1848年、パリから持ち帰られた絹の旗
現在の国旗デザインの原型が公の場に出てきたのは、1848年のことです。
その年の春、二月革命でルイ・フィリップ国王を倒した直後のフランスを祝うため、アイルランドの独立運動家トマス・フランシス・ミーア、ウィリアム・スミス・オブライエン、リチャード・オゴーマンの3人がパリを訪れます。
その滞在中、フランスの女性たちがアイルランドのために最高級の絹で三色旗を縫い上げ、ミーアに贈呈しました。「フランスの三色旗のような旗を、自分たちにも」という運動家たちの思いを、フランス側が形にして手渡した、というドラマチックな話です。
ミーアはその絹の旗を持ち帰り、1848年4月15日にダブリンで市民に向けて披露しました。それ以前にも同年3月7日、彼の出身地であるウォーターフォードで別の三色旗が公の場に掲げられているので、「三色旗の登場」自体はそれが最初です。
ただしこの時点ではまだ独立運動のシンボル止まり。正式に国旗として定められたのは1937年のアイルランド憲法(Bunreacht na hÉireann)第7条で、ここでようやく「国旗は緑・白・橙の三色旗とする」と明文化されました。約90年かけて、運動のシンボルから国の象徴になったわけです。
「橙を金と呼ぶな」公式注意の話
ここからがおもしろいです。
アイルランド国旗の橙は、ぱっと見「黄色っぽい」とか「金色っぽい」と感じる人もいると思います。実際、英語圏でも一部の人が「green, white, and gold」と呼ぶことがあるんです。
これに対して、アイルランド首相府(Taoiseach)は公式の旗ガイドで、明確にこう言っています。黄色や金色を橙の代わりに使うことは「誤った表現(misrepresentation)」であり、積極的にやめさせるべきだ、と。
理由は、橙にはプロテスタント教徒を国旗に含めるという重要な意味があるからです。「金」と呼び替えると、国旗が本来表すべき和解のメッセージ(fundamental symbolism)が壊れる、と首相府の文書には明記されています。
ちなみに公式色は緑がPantone 347 U、橙がPantone 151 U、白がpure whiteと、ちゃんと番号まで決まっています。色の名前ひとつにこれだけのこだわりがあるって、なかなかないです。
コートジボワール国旗との「鏡像関係」
ここでもうひとつ、世界の旗あるあるをご紹介。
アイルランド国旗と、西アフリカのコートジボワールの国旗、並べてみるとほぼ「鏡像」なんです。
| アイルランド | コートジボワール | |
|---|---|---|
| 構成 | 縦三色 | 縦三色 |
| 旗竿側 | 緑 | 橙 |
| 中央 | 白 | 白 |
| 反対側 | 橙 | 緑 |
色は同じ、配置だけ逆。並べて見ると本当に紛らわしい。
2018年、コートジボワールの選手が「アイルランド国旗を裏返して」金メダルを祝った話
そして、この「鏡像関係」が現実の現場でちょっとした名場面(?)を生んだのが、2018年3月の世界室内陸上競技選手権(バーミンガム開催)でのこと。
女子60m走で金メダルを獲ったのが、コートジボワール代表のミュリエル・アウレ選手。会場で大喜びしていたのですが、手元にコートジボワール国旗が無い。そこで彼女がどうしたかというと、観客から借りたアイルランド国旗を、裏返して掲げて祝勝の写真におさまったんです。
「裏返したアイルランド国旗=コートジボワール国旗」ということが瞬時に成立してしまうほど、この2つの旗は鏡像。間違いではなく、ちゃんと意図して活用した、というのがこの話のミソです。とはいえ、こんなトンチみたいな対応ができてしまうほど似ている、というのもなかなかな話ですよね。
まとめ:シンプルな三色に、これだけのこだわりがある
今回のアイルランド国旗まとめ。
- 緑=カトリック、橙=プロテスタント、白=両者の永続的な和解
- 1848年4月、パリでフランスの女性たちが絹で縫った三色旗をミーアに贈呈
- 公式国旗としての確定は1937年アイルランド憲法第7条
- 「橙を金と呼ぶ」のは首相府が積極的にやめさせるべきと明記(プロテスタント側のシンボルが消えるため)
- 公式色は Pantone 347 U(緑)と 151 U(橙)まで指定
- コートジボワール国旗と鏡像関係。2018年バーミンガム世界室内陸上で、コートジボワール選手がアイルランド国旗を裏返して金メダルを祝った
国旗って、色の名前まで気をつけないといけない、というのが今回の発見です。