緑・白・赤の横三色。それだけ見れば普通の三色旗ですが、イランの国旗はよく見るほど「文字だらけ」になります。中央に複雑な赤いシンボル、緑と赤の境界線にはアラビア文字がびっしり。「神」という言葉が、形を変えて何度も繰り返されている——今回はそんなイラン国旗の細部を解きほぐしていきます。
まずは構成のおさらい
イラン国旗の構成は、上から次のとおりです。
- 緑
- 白(中央に赤いイラン・イスラム共和国の国章)
- 赤
色の意味は、以下のとおりです。
- 緑:イスラム、成長
- 白:平和、誠実さ
- 赤:勇気、犠牲
そして中央の赤いエンブレムと、緑と赤の縁の細かい装飾が、この旗の本当の見どころです。
中央のシンボル、じつは「Allah」と読める
旗の真ん中にある、ちょっと幾何学的な赤いエンブレム。これは実は、アラビア文字で「الله(Allah=神)」を読めるようにデザインされているんです。
構成要素を分解すると、4つの三日月と、真ん中の剣、そしてその上のシャッダ(強調記号)に分かれます。これらが組み合わさって、アラビア語で「Allah」という文字を形作っています。
右から読むと、最初の三日月が「ا(アリフ)」、2つめの三日月が「ل(ラム)」、真ん中の剣の縦線が「ل(もうひとつのラム)」、3つめと4つめの三日月が「ه(ハー)」。合わせて「الله」、神様の名前です。
シンボルが、文字でもあり、絵でもあるという二重構造。気づくとちょっとうれしくなるデザインです。
しかも、チューリップにも見える
このエンブレム、別の見方をするとチューリップの花にも見えるんです。
イランには昔から、「祖国のために殉じた若い兵士の墓に、赤いチューリップが咲く」という言い伝えがあります。チューリップは殉教と記憶を象徴する花として、イラン文化に深く根付いています。
つまりこの中央のシンボルは、「神(Allah)の名」としても読めて、同時に「殉教者を象徴するチューリップ」にも見える、1つの図形に2つの意味を畳み込んだデザインなんです。デザイナーはハミド・ナディーミ(Hamid Nadimi)という人物で、1980年5月9日にホメイニー師がデザインを承認、同年7月29日に新国旗として正式に布告・掲揚開始されました。
縁の細かい文字、数えてみると「22回」
緑色の帯の下のフチ、そして赤い帯の上のフチを、目を細めてよく見てみてください。白い細かい文字が、ぎっしり書かれているのがわかります。
書かれているのは「الله أكبر(アッラーフ・アクバル=神は偉大なり)」。書体は古典的なクーフィー体(Kufic script)で、鋭角的で幾何学的な、コーランの古写本などで使われる伝統的なスタイルです。
そしてこの「アッラーフ・アクバル」、ただ書かれているのではなく、正確に22回繰り返されているんです。緑色の帯の下フチに11回、赤色の帯の上フチに11回、合計で22回。
なぜ22回か。ここに、この旗のもうひとつの仕掛けがあります。
「22」は、イスラム革命の日付そのもの
22回の繰り返しは、ただの装飾ではなく、特定の日付を意味しています。
それが、イラン暦バフマン月22日(1979年2月11日)です。
この日、パーレヴィー朝が崩壊し、イスラム革命が勝利を収めました。国の体制が王制からイスラム共和制へと根本的に切り替わった、決定的な日です。
つまりイラン国旗の縁を縁取る「22回のアッラーフ・アクバル」は、革命の日付を旗そのものに刻み込んだもの。毎日、毎時、誰がどこから見ても、革命の記憶が国旗の隅々まで埋め込まれている、そういう設計です。
シンボルに、日付を文字数で隠すというアプローチは、なかなか他にない発想です。
革命前の旗には、ライオンと太陽がいた
ちなみに1979年の革命前まで、イランの国旗には全然違うものが描かれていました。それが、ライオンと太陽(شیر و خورشید)のシンボルです。
剣を持つライオンの背後から太陽が昇るこのモチーフは、サファヴィー朝(16世紀)からパーレヴィー朝末期まで、400年以上もイランを象徴していた伝統的なエンブレムです。日本でいうと、ちょうど室町〜安土桃山時代から続いていたシンボル、ということになります。
1979年のイスラム革命で、このライオンと太陽は「王制と古い時代の象徴」として完全に削除され、現在の「Allah」エンブレムと22回のアッラーフ・アクバルに置き換えられました。
400年以上続いたシンボルを、1年で書き換える。イラン国旗の変化は、革命というものが社会に与えた衝撃の大きさを、視覚的に体感させてくれます。
まとめ:1枚の旗に、革命の全てが入っている
今回のイラン国旗まとめです。
- 緑・白・赤の横三色
- 中央の赤いシンボルは、アラビア文字で「Allah(神)」を形作っているうえに、チューリップ(殉教の象徴)にも見える二重構造
- 設計者はハミド・ナディーミ、1980年5月9日にホメイニーが承認、同年7月29日に正式掲揚
- 緑帯と赤帯のフチにクーフィー体で「アッラーフ・アクバル」が計22回書かれている
- 22という数はイラン暦バフマン月22日(1979年2月11日)=イスラム革命勝利の日を意味する
- 革命以前は「ライオンと太陽」(16世紀から400年以上続いた伝統的シンボル)が描かれていた
- 現行デザインは1980年7月29日に正式掲揚(5月9日にホメイニー師が承認)
「シンボル」「文字」「日付」「殉教の花」と、複数のレイヤーを1枚に重ねた、世界でもっとも情報密度の高い国旗のひとつです。