白(広め)と赤の横二色、白い部分に3つの塔を持つ赤い城、その城門から下がる金色の鍵。ジブラルタルの旗、イベリア半島南端のイギリス海外領土の旗です。1502年にスペイン女王イサベル1世が与えた紋章で、ここは「地中海の鍵」と呼ばれる戦略要地でした。イギリス領なのに紋章の起源はスペインという、複雑な歴史を持つ1枚です。今回はそんなジブラルタル旗の話です。
まずは構成のおさらい
ジブラルタル旗の構成は、次のとおりです。
- 横2本の帯(上から):白(2倍幅)・赤
- 白い部分の中央:3つの塔を持つ赤い城
- 赤い帯の中央:城門から下がる金色の鍵
色とシンボルの意味は、以下のとおりです。
- 白:ジブラルタルの要塞
- 赤:カスティーリャ王国の伝統色
- 赤い城:ジブラルタルの要塞であり、戦略的拠点を表します
- 金の鍵:「地中海の鍵」であり、ジブラルタルの戦略的重要性を表します
英連邦旗ではなく、紋章をそのまま旗にした、珍しいイギリス海外領土旗です。
「地中海の鍵」 ── 金の鍵の意味
ジブラルタル旗の最も重要なシンボルを見ていきます。
金の鍵
城門から下がる金色の鍵は、ジブラルタルが地中海への入り口の鍵であることを示します。ムーア人やスペインはこれを「スペインへの鍵」と見なし、イギリスは「地中海への鍵」と見なしました。同じ鍵が、立場によって違う意味を持っていたのです。
戦略的要衝
ジブラルタル海峡は、地中海と大西洋を結ぶ唯一の海路です。幅はわずか約14kmで、ヨーロッパとアフリカが最も接近する地点でもあり、「海上交通の咽喉」とも呼ばれます。地中海に出入りするすべての船が、このジブラルタル海峡を通る。これこそがジブラルタルの戦略的価値であり、国旗の鍵はその重要性を象徴しています。
1502年 ── スペイン女王イサベル1世の紋章
ジブラルタル旗の起源をたどります。
1502年7月10日、王室令
1502年7月10日、スペイン女王イサベル1世がトレドで王室令を出し、ジブラルタルに紋章を授与しました。それが「赤い城+金の鍵」の紋章です。当時、ジブラルタルはスペイン領でした。
カスティーリャ王国
赤い城は、カスティーリャ王国の紋章に由来します。「Castile(カスティーリャ)」とは「城の地」を意味し、イサベル1世はカスティーリャ女王でした。城はカスティーリャの象徴だったのです。スペイン女王が、スペイン領ジブラルタルに与えた紋章。これが起源です。
1704年、イギリスが占領
そして1704年、スペイン継承戦争中にイギリスがジブラルタルを占領します。1713年のユトレヒト条約で正式にイギリス領となり、以後300年以上のイギリス領が続きました。しかし紋章は、スペイン時代のものを継承しています。イギリス領なのにスペイン女王の紋章を使い続けるという、世界でも珍しい状況です。なお現在の紋章は、1502年の意匠を基にしつつイギリスの紋章学に沿って公式認定(Royal Warrant)されており、イギリス海外領土で最も古い紋章でもあります。
1982年11月8日、現代版
そして1982年11月8日、現代のジブラルタル旗が正式に採択されました。1502年の紋章をバナー(紋章旗)の形にしたもので、英連邦旗ではない独自の紋章旗です。
「英連邦旗ではない」 ── 珍しいイギリス海外領土旗
ジブラルタル旗の、世界的に独特な特徴を見ていきます。
多くのイギリス海外領土は英連邦旗
イギリス海外領土は、通常は英連邦旗(ブルー・エンサイン+紋章)を用います。アンギラやケイマン諸島、バミューダなどがその例で、青地にユニオン・ジャックと紋章を組み合わせた旗です。
しかしジブラルタルは紋章旗
そしてジブラルタルは、紋章をそのまま旗にしています。ユニオン・ジャックはなく、白と赤に城と鍵を配したデザインです。イギリス領土でありながら、ユニオン・ジャックを使わない数少ない旗です。バミューダ(赤エンサイン)と並ぶ例外ですが、ジブラルタルはより独自的だといえます。
ジブラルタルという領土
ジブラルタルの基本情報です。
- 正式名:ジブラルタル(Gibraltar)
- 首都:ジブラルタル市(都市国家的)
- 面積:約6.8km²
- 人口:約3.4万人
- 公用語:英語
- 法的地位:イギリスの海外領土
「ジブラルタルの岩」
ジブラルタルのシンボルが、ジブラルタルの岩(Rock of Gibraltar)です。高さ426mの石灰岩の巨岩で、古代ギリシア神話で世界の果ての印とされた「ヘラクレスの柱」の一方にあたります。保険会社プルデンシャルのロゴのモデルにもなりました。
「ジブラルタル=ターリクの山」
国名「ジブラルタル」は、アラビア語に由来します。「Jabal Tariq」とは「ターリクの山」という意味です。711年、ムーア人将軍ターリク・イブン・ジヤードがここからイベリア半島に侵攻し、その名「Jabal Tariq」が転じて「Gibraltar」になりました。
「バーバリーマカク」
ジブラルタルには、世界的に有名な動物がいます。バーバリーマカク(Barbary macaque)で、ヨーロッパ唯一の野生のサルです。「ジブラルタルの岩のサル」として知られ、サルがいなくなったらジブラルタルはイギリス領でなくなる、という伝説もあります。
「スペインとの領有問題」
ジブラルタルには、現代の課題もあります。スペインが領有権を主張しているのです。しかし2002年の住民投票では98.5%がイギリス領の維持を支持しており、ジブラルタル住民はイギリス領を望んでいます。ブレグジット(イギリスのEU離脱)で、問題はさらに複雑化しました。国旗の城と鍵は戦略要地を示しますが、領有問題は未解決のままです。諸説あり、評価は立場により異なります。
まとめ:1502年の城と鍵、地中海の鍵
今回のジブラルタル旗のまとめです。
- 白(広め)・赤の横二色、白い部分に3つの塔の赤い城、赤い部分に金の鍵
- 1982年11月8日、現代版を正式採択(紋章をバナー化)
- 紋章は1502年7月10日、スペイン女王イサベル1世がトレドで授与
- 赤い城はカスティーリャ王国の紋章(「城の地」)、金の鍵は「地中海の鍵」
- 1704年スペイン継承戦争中にイギリスが占領、1713年ユトレヒト条約で正式にイギリス領
- イギリス領なのに、スペイン時代の紋章を継承
- 英連邦旗(ユニオン・ジャック付き)ではない、珍しいイギリス海外領土旗
- ジブラルタル海峡は地中海と大西洋を結ぶ唯一の海路、幅約14km
- 「ジブラルタルの岩」(高さ426m)、ヘラクレスの柱
- 国名はアラビア語「Jabal Tariq(ターリクの山)」、711年ムーア人将軍ターリク由来
- バーバリーマカク(ヨーロッパ唯一の野生のサル)
- スペインが領有権を主張、2002年住民投票で98.5%がイギリス領維持を支持
- 面積約6.8km²、人口約3.4万人
スペイン女王の城と鍵が、イギリス領の旗になる。ジブラルタルの旗は、「地中海の鍵」と呼ばれる戦略要地の、500年の複雑な歴史を1枚に込めた旗です。