青・白・赤の縦三色。フランスの国旗、トリコロールです。世界で最も有名な国旗のひとつであり、世界中の縦三色旗の「母」でもあります。1789年のフランス革命で生まれ、「自由・平等・友愛」という近代国家の理念を3色に込めた旗です。しかも世界の縦三色旗の多くがフランスのフォーマットを参考にしているという、世界の国旗史における中心的存在でもあります(ただし汎アフリカ色・汎アラブ色・汎スラヴ色など、独自ルーツの三色旗系統も多く存在します)。今回はそんなフランス国旗の話です。
まずは構成のおさらい
フランス国旗の構成は、次のとおりです。
- 縦3本の帯(左から):青・白・赤
- 比率:2:3
色とシンボルは、以下のとおりです。
- 青:自由(Liberté)。聖マルティヌスの色であり、パリ市の色です
- 白:平等(Égalité)。ブルボン王朝の伝統色で、王権や純粋さを表します
- 赤:友愛(Fraternité)。聖ドニの色であり、パリ市の色です
「フランス共和国の3理念(自由・平等・友愛)を、3色で表現する」というのが、現代の標準的な解釈です。ただしこれは後付けの解釈で、元々の色の意味は別のところにありました。
「青と赤」 ── パリ市の色
フランス国旗の起源は、1789年7月14日のバスティーユ襲撃にさかのぼります。
バスティーユ襲撃
1789年7月14日、パリのバスティーユ牢獄でフランス革命の象徴的な瞬間が訪れます。市民が圧政の象徴であるバスティーユを襲撃し、革命の火種が点火されました。この7月14日は、現代のパリ祭(フランス共和国記念日)になっています。
青と赤の「コカルド」
バスティーユ襲撃の前後、パリの民兵は青と赤のコカルド(Cocarde、円形の徽章)を帽子につけていました。青と赤はパリ市の伝統色で、青は聖マルティヌスの色、赤はパリの守護聖人である聖ドニの色です。これは「パリの市民が、王に対して立ち上がった」というシンボルでした。
つまり青と赤の本来の意味は、「国王に対するパリの反抗」だったのです。
「白」を加えたラファイエット
3色目の「白」は、1789年7月17日に追加されました。
ラファイエット侯爵
ラファイエット侯爵(Marquis de Lafayette、1757-1834)は、フランス革命の主要指導者でした。アメリカ独立戦争の英雄でワシントンの友人でもあり、革命のなかでは国民衛兵の総司令官を務めました。
「白」の追加
ラファイエットは1789年7月17日、青と赤に「白」を加えるよう提案します。白はブルボン王朝の伝統色、すなわち王権の色でした。「革命の青と赤に、王の白を加え、国民全体の団結を表す」という意図です。
これは「革命と王権の和解」という、当初の妥協的なメッセージでした。王制を完全に否定するのではなく、王と市民の共存を目指したのです。しかし後に、ルイ16世の処刑(1793年)によって王権は完全に否定されることになります。
このように、トリコロールは「革命の妥協から始まった3色」だったのです。
1790年10月24日、最初の国旗 ── 「赤白青」
実は、最初は「青白赤」ではなく「赤白青」でした。
1790年版
1790年10月24日、国民議会が初めての三色旗を採択します。左から赤・白・青に並べた「ドラポー・トリコロール(三色旗)」でした。
1794年、現行版に
そして1794年2月15日、現行の「青・白・赤」に変更されます。新古典主義の画家ジャック・ルイ・ダヴィッドらの提案・関与とされますが、彼の具体的な役割の度合いについては諸説あります。「青を旗竿側に置くと、風になびいた時に見やすい」というのが理由でした。
最初は左から赤・白・青、その後に青・白・赤へ。このわずか4年での順序変更は、世界の国旗のなかでも興味深い変遷です。
「自由・平等・友愛」の解釈
フランス国旗の3色について、現代の標準的な解釈を見ていきます。
「Liberté, Égalité, Fraternité」
フランス共和国の国是は、青が自由(Liberté)、白が平等(Égalité)、赤が友愛(Fraternité)を表すというものです。「1789年フランス革命の3つの理想」として、世界中で知られています。
後付けの解釈
ただし、この色と理念の対応は後付けです。革命当初は、色に明確な政治的意味は割り当てられていませんでした。「青=自由、白=平等、赤=友愛」という対応が確立したのは、19世紀以降のことです。
つまり「3色と3理念」の対応は、世界の三色旗が普及した後、フランス国旗の解釈として広まったものなのです。
「世界の三色旗の母」
フランス国旗は、世界の国旗史の中心にあります。
三色旗の家族 ── フランスの直接影響と、それ以外
世界の三色旗は極めて多数にのぼりますが、そのルーツは複数あります。
まず、フランス革命より古い、独自ルーツの三色旗があります。オランダは赤・白・青の横三色で、1572年とフランスより古く独立した起源を持ちます。ロシアは白・青・赤の横三色で、1693-1696年にピョートル大帝がオランダ国旗をモデルに導入しており、フランス革命より約100年早いものです。
次に、フランス革命の直接的・間接的影響を受けたグループがあります。イタリアの緑・白・赤の縦三色(1797年、フランス革命の直接影響)、アイルランドの緑・白・橙の縦三色(1848年、フランス革命の影響)、ベルギーの黒・黄・赤の縦三色(1831年)、ルーマニアの青・黄・赤の縦三色(1834年、ルーマニア独立の象徴)、そしてアンドラの青・黄・赤の縦三色などです。
さらに、「青・白・赤」をそのまま採用した国々もあります。チリ(赤・白・青+星)、キューバ(青白赤+星)、北朝鮮(赤白青+星)、韓国(白+太極で独自)、ノルウェー(赤・白・青+十字)、アイスランド(青・白・赤+十字)、そしてクロアチア・スロバキア・セルビア・スロベニア(汎スラヴ色の赤白青)などが挙げられます。
「世界の縦三色旗の多くが、フランス国旗のフォーマットを参考にしている」として、フランスは世界の国旗デザインに大きな影響を残しました。その一方で、北欧十字・汎アラブ色・汎アフリカ色・汎スラヴ色・ラテンアメリカ色などはそれぞれ独自のルーツを持ち、フランス単独の系統とはみなされません。「世界の国旗の約30%がフランス系統」とよく言われますが、これはフォーマットの類似性を含む大まかな表現で、厳密な直接影響の系統はもう少し限定的です。
「縦三色」の発明
フランス国旗の最も革新的な貢献は、縦三色というフォーマットそのものです。フランス以前は横帯・十字・紋章が主流でしたが、フランス以降は縦三色が世界に広まりました。「1つの旗を3つの均等な縦帯に分ける」というシンプルなアイデアが、革命とともに世界中に拡散したのです。
フランスという国
フランスの基本情報です。
- 正式名:フランス共和国(République française)
- 首都:パリ(Paris)
- 面積:約64.3万km²(本土+海外領)
- 人口:約6,700万人
- 公用語:フランス語
- 宗教:ローマ・カトリック(約47%)、無宗教(約40%)、イスラム教(約5%)
「ヨーロッパ最大の国」
フランスは、面積と影響力の両面で大きな存在です。ロシアを除けばヨーロッパで最大の面積を持ち、EUの主要加盟国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもあります。核兵器保有国であり、フランス語圏(フランコフォニー)の中心として、世界29カ国で公用語となっています。
「文化大国」
フランスは、世界的に大きな文化的影響を持っています。料理ではミシュランガイド発祥の地であり、その美食術は世界文化遺産にもなっています。ファッションではパリコレ、シャネル、ルイ・ヴィトン、ディオール。ワインではボルドーやブルゴーニュ。美術ではルーブル美術館、印象派、そしてフランスで活動したピカソ。文学ではユーゴー、バルザック、サルトル、カミュなど、枚挙にいとまがありません。
国旗の3色が世界中の文化に影響を与えたというのが、フランスの不思議な力です。
革命の伝統
フランスは、革命が繰り返されてきた国でもあります。1789年のフランス革命(ルイ16世処刑、第一共和制)、1830年の七月革命(シャルル10世退位、ルイ・フィリップ即位)、1848年の二月革命(第二共和制)、1870年の普仏戦争敗北による第三共和制、そして1958年のド・ゴールによる第五共和制です。
5回の共和制を経た国というのは、世界でもフランスならではの政治史です。
ちなみに:「フランス国旗」と日本の関係
フランス国旗と日本には、意外な歴史的つながりがあります。
明治日本の参考
1860年代から70年代にかけて、明治政府はフランスの制度を数多く参考にしました。フランス民法は日本民法へ、フランスの軍事制度は明治日本陸軍(初期)へ、そしてフランス文化は明治の文化的影響として取り入れられています。
しかし国旗は独自
ただし、日本国旗はフランス三色旗の影響を受けませんでした。日の丸は太陽信仰の独自シンボルであり、日本は東アジアで唯一、トリコロール系を採用しなかった主要国家です。
国旗だけは独自のシンボルを保ったというのが、日本の興味深いところです。
まとめ:世界の三色旗の母
今回のフランス国旗のまとめです。
- 青・白・赤の縦三色(2:3)
- 1789年7月、バスティーユ襲撃時にパリ市民が青と赤のコカルドを着用
- 1789年7月17日、ラファイエット侯爵が白を追加(青+赤=パリ、白=ブルボン王朝)
- 「革命と王権の和解」が当初の意味
- 1790年10月24日、初めての三色旗(赤・白・青)を国民議会が採択
- 1794年2月15日、現行の青・白・赤に変更(ダヴィッド画家らの提案・関与とされる、諸説あり)
- 青=聖マルティヌス、赤=聖ドニ、白=王権・ブルボン家
- 現代の解釈:青=自由(Liberté)、白=平等(Égalité)、赤=友愛(Fraternité)
- 「自由・平等・友愛」と色の対応は19世紀以降の後付け
- 世界の縦三色旗のフォーマットの母(イタリア・アイルランド・ルーマニアなどへの直接影響)
- ロシア(1696年、オランダ起源)・オランダ(1572年)はフランスより古く、独自ルーツ
- 汎アフリカ色(エチオピア由来)・汎アラブ色・汎スラヴ色などはフランス単独の系統ではない
- 1789年フランス革命から始まり、1958年第五共和制まで5回の共和制
- 日本は明治期にフランス制度を多く参考にしたが、国旗だけは独自(日の丸)
- 国連安保理常任理事国、EU主要国、フランス語圏の中心
1つの旗が、世界の国旗の歴史を変えた。フランスのトリコロールは、革命の理念と縦三色のフォーマットを世界中に広めた「国旗の母」として、現代の国旗デザインの基盤になりました。