5本の横帯のなかに、黒と白の盾、そして2本の槍。アフリカ南部の小さな王国エスワティニ(旧スワジランド)の国旗です。なんとこの旗、国王本人がデザインした、世界の国旗のなかでもものすごく珍しいパターンを持っています。今回はそんなエスワティニ国旗の話です。
まずは構成のおさらい
エスワティニ国旗の構成は、次のとおりです。
- 横帯:上から青・黄(細い帯)・赤(広い中央帯)・黄(細い帯)・青の5本
- 中央:赤い帯の上に黒と白のヌグニ盾、その背後に2本のアセガイ(槍)と羽飾りのついた杖
3色なのですが、構成は5本で、汎アラブ系の3本構成や、アフリカでよく見る4本構成とも違う、独特の構造です。
色とシンボルの意味は、次のとおりです。青は平和と安定、黄はエスワティニの豊かな資源、赤は過去の戦い(流された血)を表します。黒と白の盾はエスワティニにおける黒人と白人の平和な共存を、盾と槍は外敵からの保護を、羽飾りは王の権威を表します。
「色」と「盾」、両方が国の物語を語っている、情報密度の高い旗です。
デザインしたのは「国王本人」
世界の国旗のなかで、「国王みずからがデザインした」ケースは本当に稀です。エスワティニ国旗はその数少ない例です。
デザインしたのは、ソブーザ2世(Sobhuza II、1899-1982)。60年以上にわたってスワジランドを統治した、アフリカ史上もっとも長く在位した君主の1人です。
なぜソブーザ2世が旗をデザインしたかというと、1968年の独立にあたって、新しい国旗が必要になったからです。そこで「自国の伝統と王権、そして近代国家としての立ち位置を、自分が直接デザインに落とし込もう」と、王みずから筆を取った、というわけです。
「外注デザイン」でも「公募」でもなく、王の手で描かれた旗。アフリカ最後の絶対君主制国家らしい話、とも言えます。
旗のルーツは「1941年の軍旗」にある
ソブーザ2世が国旗をゼロから考案したわけではなく、ちゃんと前身となるシンボルがありました。それが、1941年に王がスワジ・パイオニア軍団に与えた軍旗です。
スワジ・パイオニア軍団とは、第二次世界大戦中にスワジランド出身の兵士たちが編成した軍団で、イギリス軍の一部として戦いました。ソブーザ2世は、彼らを送り出すときに「我々のルーツを忘れずに」というメッセージを込めた軍旗を授け、それが現在の国旗のベースになります。
つまりエスワティニ国旗は、第二次大戦中の軍旗、王の家系の伝統的なシンボル、そして独立国家としての近代性という3つが重なってできた、かなり層の厚い設計になっているわけです。
「アセガイ」と「羽飾り」の話
中央の盾の背後にある2本の槍は、アセガイ(assegai)と呼ばれる、南部アフリカ伝統の長い投げ槍です。スワジを含むズールー系民族の戦闘で広く使われていました。「2本の槍が盾を支える」という構図は、外敵からの守りを象徴しています。
そして羽飾りつきの杖、これはインジョボ(injobo)と呼ばれる装飾品で、コクホウジャク(ウィドウバード)とエボシドリ(ローリー/Lourie)という2種類の鳥の羽を束ねたものです。
ここがちょっと面白いポイントで、この2種類の羽は、王だけが身につけることを許されたものでした。「王の権威」を直接的に旗に描き込んだ、というわけです。
王の鳥の羽が、旗に描かれている。これは絶対君主制の国らしい踏み込んだ象徴で、民主共和国の旗には、なかなかできないことです。
2018年、国名が変わったけれど旗は変わらず
ところで、この国の名前、スワジランドからエスワティニへと変わりました。これは2018年4月19日、現国王ムスワティ3世(Mswati III、ソブーザ2世の息子)が独立50周年記念のスピーチで宣言したものです。
理由は2つありました。1つは、「スワジランド(Swaziland)」が植民地時代の英語名で、ヨーロッパ人がつけた呼び方だったこと。もう1つは、国際的に「スイス(Switzerland)」と混同されることが多かったこと(綴りが似ているため)です。
ようやく植民地時代の名残を脱して、自分たちの言葉で国を呼ぼう。そんな決定でした。エスワティニ(eSwatini)はスワティ語で「スワティ人の地」を意味します。
国名は変わりましたが、国旗のデザインは1968年から一度も変わっていません。ソブーザ2世が描いたデザインを、現代のエスワティニも引き継いでいる、ということです。
ちなみに:アフリカ最後の絶対君主制
エスワティニは、現在のアフリカで唯一の絶対君主制国家です。2005年憲法下で議会(リバンドラ)や司法機構は存在しますが、国王が首相任命権・法案最終拒否権・議会解散権を握り、実質的な最終決定権を保持しているため、「実質的な絶対君主制」と扱われます。ヨーロッパ中世のような構造が、21世紀にも残っている数少ない例です。
国旗のなかにこれだけ王権の象徴(盾・槍・王の羽)が直接的に描かれているのは、国全体がいまも王を中心に動いていることの表れ、とも言えます。
ただ、絶対君主制ゆえに人権や民主化を求める運動もずっとあり、近年は緊張も高まっています。旗のシンボルがいまも変わらない一方で、国のかたちは少しずつ問われ続けている、というのが今のエスワティニの状況です。
まとめ:王の手で描かれた、王の旗
今回のエスワティニ国旗のまとめです。
- 青・黄細・赤・黄細・青の5本横帯+中央に黒白の盾と2本の槍、羽飾りの杖
- デザイナーは国王ソブーザ2世本人(在位61年、アフリカ史上屈指の長期君主)
- ルーツは1941年に王がスワジ・パイオニア軍団に与えた軍旗
- 採用は1968年10月6日(英国からの独立翌月)
- 中央の盾は黒と白=黒人白人の共存、2本のアセガイ=防衛、羽飾り=王のみが使える鳥(コクホウジャク/エボシドリ)の羽
- 2018年4月19日、国名がスワジランド→エスワティニに変更(旗は変わらず)
- アフリカ最後の絶対君主制国家
王みずから描いた旗、王の鳥の羽がついた旗、王のための盾と槍。エスワティニの国旗は、王権の存在そのものを誇り高く可視化している、世界でも珍しい1枚です。