橙・白・緑の縦三色。コートジボワールの国旗です。アフリカの旗でありながら、汎アフリカ色(赤・黄・緑)を採用していない、ちょっと珍しい1枚。しかもヨーロッパのアイルランド国旗とは「鏡像関係」にあるという、地理的に遠く離れた2つの国の旗が偶然似ているドラマもあります。今回はそんなコートジボワール国旗の話です。
まずは構成のおさらい
コートジボワール国旗は、左から橙(オレンジ)・白・緑の縦三色(バーティカル・トライバンド)です。縦横比は2:3。
色の意味には、2つの解釈があります。
公式の解釈は、次のとおりです。
- 橙:国土と独立闘争で流された血、人々の活力
- 白:平和と秩序
- 緑:希望、より良い未来
地理的な解釈は、次のとおりです。
- 橙:北部のサバンナ。コートジボワール北部に広がる乾燥した草原地帯
- 白:両者を結ぶ平和
- 緑:南部の熱帯雨林。コートジボワール南部の森林地帯
北から南まで、国土を旗の左から右へ並べたという、ガボンと似た「地理を旗にする」発想です。ただしコートジボワールは縦置きなので、地理の解釈は少しゆるめで、実際には国土は南北に広がっています。
フランスを愛した大統領、ウフェ=ボワニ
コートジボワール国旗の背景には、初代大統領フェリックス・ウフェ=ボワニ(Félix Houphouët-Boigny、1905-1993)という人物の強い影響があります。
どんな人物か
ウフェ=ボワニは、植民地時代からフランスで医師・国会議員として活躍し、アフリカ人としては珍しくフランスの第四共和国政府の閣僚を務めた人物です。フランスの文化と政治を強く愛し、独立後もフランスとの密接な関係を維持しました。いわゆるフランサフリック体制です。1960年から1993年まで、33年間にわたってコートジボワールを統治しました。
アフリカで生まれ、フランスで政治家になり、独立後もフランスとの絆を大切にした男。それがウフェ=ボワニです。
国旗にもフランスの影響
そんな彼が選んだ国旗は、フランス国旗(青・白・赤の縦三色)を強く意識したものでした。3色の縦配置はフランス国旗のフォーマットそのままで、白を中央に配置するのもフランスと同じです。そして橙と緑という「アフリカらしい色」を周囲に置きました。
形はフランス風、色はアフリカ。ウフェ=ボワニの政治姿勢そのものが、デザインに表れていると言えます。
「汎アフリカ色」を、あえて避けた
ここがコートジボワール国旗のユニークなところです。
1958年から1960年にかけて、フランス領アフリカは次々と独立しましたが、多くの国がエチオピア由来の汎アフリカ色(赤・黄・緑)を国旗に採用しました。
- ギニア(1958年独立):赤・黄・緑
- カメルーン(1960年独立):緑・赤・黄
- マリ(1960年独立):緑・黄・赤
- セネガル(1960年独立):緑・黄・赤
つまり「独立アフリカ=汎アフリカ色」が事実上のテンプレートになっていた時代です。
ところが、コートジボワールはその流れに乗りませんでした。理由は明確で、ウフェ=ボワニはフランスと距離を置きたくなかったのです。「アフリカ統合(汎アフリカ主義)」よりも「フランスとの良好な関係」を優先し、国の保守的な政治路線を国旗の色でも表現しました。
ギニアのセク・トゥーレが「隷属の富より自由の貧困を選ぶ」と宣言してフランスと決別したのとは、正反対の路線です。フランスと友好的に独立した、アフリカでは唯一に近い国として、独自の道を歩んだわけです。
評価が分かれる路線でしたが、結果としてコートジボワールは1960年代から80年代にかけて、アフリカでもっとも経済成長した国のひとつになりました。「アイボリー奇跡」と呼ばれた成長です。
アイルランド国旗との「鏡像関係」
ここでもうひとつ、コートジボワール国旗の有名な話を紹介します。
コートジボワール国旗とヨーロッパのアイルランド国旗を並べてみると、ほぼ「鏡像」であることに気づきます。
| コートジボワール | アイルランド | |
|---|---|---|
| 構成 | 縦三色 | 縦三色 |
| 旗竿側(左) | 橙 | 緑 |
| 中央 | 白 | 白 |
| 反対側(右) | 緑 | 橙 |
色は完全に同じで、配置だけが逆という、世界の国旗のなかでも珍しい「鏡像関係」です。
なぜこうなったか
これは完全な偶然です。
アイルランド国旗は、1848年に独立運動家トマス・F・ミーアがパリで作った旗で、緑がカトリック、橙がプロテスタント、白が両者の和解という、アイルランド固有の意味を持っています。一方コートジボワール国旗は、1959年にウフェ=ボワニ政権がフランス国旗を意識して作った旗で、橙がサバンナ、緑が森林、白が平和という、アフリカ固有の意味を持っています。
まったく違う理由で作られた2つの旗が、たまたま色構成が一致したという偶然です。地球の真逆にある2つの国が、こうやって偶然似てしまうのも、国旗の世界の面白さです。
2018年バーミンガム事件
アイルランド記事でも書いた話ですが、もう一度紹介します。
2018年3月、イングランド・バーミンガムで開かれた世界室内陸上競技選手権でのことです。女子60m走の金メダリスト、コートジボワール代表のミュリエル・アウレ選手は、会場でコートジボワール国旗を手に入れることができず、観客から借りたアイルランド国旗を裏返して掲げました。
鏡像だから、裏返せば自国の旗になる。なかなか粋な発想を見せた瞬間でした。
世界の国旗のあるある話のなかでも、「2018年バーミンガム事件」としてよく語られる出来事です。
国名の正式表記について
コートジボワールについて、ちょっと国名の話もしておきます。
正式国名は「コートジボワール共和国」、フランス語で「République de Côte d'Ivoire」です。日本語では「象牙海岸」と訳されることもありますが、1985年、コートジボワール政府は「すべての言語で原語の Côte d'Ivoire を使ってほしい」と国連に要請しました。
理由は、各言語で訳されると表記が国ごとにバラバラになり、「象牙海岸」「Ivory Coast」「Costa de Marfil」など訳語が多すぎて混乱するからです。国際的な統一性を保つため、フランス語のままで使ってほしいというわけです。
なので、英語圏でも公式には「Côte d'Ivoire」と書くのが正しいということになっています。ただし非公式には「Ivory Coast」も広く使われ続けています。
日本では「コートジボワール」と書くのが定着していて、サッカーの試合中継などでもそう呼ばれます。自分の国の名前を翻訳されたくないというのは、独立国としての主張のひとつで、なかなか強い文化的姿勢と言えます。
まとめ:ヨーロッパとアフリカが、鏡を挟んで向き合う旗
今回のコートジボワール国旗のまとめです。
- 橙・白・緑の縦三色(縦横比2:3)
- 1959年12月3日採用、1960年8月7日独立、独立時もデザイン不変
- 公式の解釈は、橙が国土・血、白が平和、緑が希望
- 地理的な解釈は、橙が北のサバンナ、白が中央、緑が南の森林
- ウフェ=ボワニ初代大統領のフランス愛から、フランス三色旗のフォーマットを継承
- 汎アフリカ色(赤・黄・緑)をあえて避けた少数派のアフリカ国
- アイルランド国旗との鏡像関係は完全な偶然
- 2018年バーミンガム事件では、コートジボワール選手がアイルランド国旗を裏返して使用
- 1985年、国名「Côte d'Ivoire」の翻訳禁止を国連に要請
ヨーロッパの旗と、地球の反対側で鏡のように向き合う。コートジボワールの国旗は、世界の旗の偶然と必然が交差する、ちょっとロマンチックな1枚です。