白・青・黄の縦三色。カナリア諸島の旗は、スペイン領、大西洋に浮かぶ火山島群の旗です。カナリア諸島はサンタクルス・デ・テネリフェ県とラス・パルマス県の2県で構成されており、それぞれの伝統色を融合したのがこの3色です。1960年代のカナリアス・リブレ(自由カナリア)運動のなかで生まれた、自治の象徴でもあります。今回はそんなカナリア諸島旗の話です。


まずは構成のおさらい

カナリア諸島旗の構成は、次のとおりです。

  • 縦3本の帯(左から):白・青・黄
  • 公式版(Estate Flag):中央の青い帯にカナリア諸島紋章
  • 民間版(Civil Flag):紋章なし

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :サンタクルス・デ・テネリフェ県の伝統色、平和
  • :大西洋、両県の共通色
  • :ラス・パルマス県の伝統色、太陽、火山

2つの県の色を1つの旗に込めた、スペイン自治州の典型的なデザインです。


「2つの県」 ── 1つの自治州

カナリア諸島旗の、最も重要な意味を見ていきます。

2つの県

カナリア諸島自治州は、2つの県で構成されています。

主要島伝統色
サンタクルス・デ・テネリフェ県テネリフェ島・ラ・パルマ島・ラ・ゴメラ島・エル・イエロ島白と青
ラス・パルマス県グラン・カナリア島・フェルテベントゥラ島・ランサローテ島青と黄

共通色「青」

両県とも、青を伝統色に含んでいます。両県の旗の青を共有しており、大西洋を共有する2つの県を表します。

白に青、そして黄。サンタクルスの白、共通の青、ラス・パルマスの黄を組み合わせた、両県の旗を融合した稀な設計です。


1961年9月8日 ── カナリアス・リブレ運動

カナリア諸島旗の、起源を見ていきます。

「Canarias Libre」 ── 自由カナリア

1960年代、フランコ独裁時代のスペインで、カナリア諸島の自治・独立運動が起こりました。カナリアス・リブレ(Canarias Libre、「自由カナリア」)と呼ばれる、フランコ独裁への抵抗運動です。

カルメン・サルミエント

旗のデザイナーは、カルメン・サルミエント(Carmen Sarmiento)と息子たちでした。息子はアルトゥロ(Arturo)とヘスス(Jesús)です。

母と2人の息子が、家族で旗をデザインする。これはアメリカ領ヴァージン諸島(夫婦と義妹)と並ぶ、家族の手仕事です。

1961年9月8日、初公開

1961年9月8日、紙の旗として初公開されました。フランコ独裁下では非公式の存在でしたが、運動の象徴として広まっていきました。


1982年8月16日 ── 自治州法と正式採択

カナリア諸島旗の、現代の制定を見ていきます。

1975年、フランコ死去

1975年11月、フランコ独裁が終焉します。スペインの民主化が進み、各地域の自治運動が活発化しました。

1982年8月16日、カナリア諸島自治州法

1982年8月16日、自治州基本法(Organic Law 10/82)が成立します。カナリア諸島は自治州となり、旗も正式に採用されました。1961年のデザインを踏襲したものです。

地下運動の旗が、20年後に公式旗になる。これは世界の地域旗のなかでも興味深い物語です。


カナリア諸島という自治州

カナリア諸島の基本情報です。

  • 正式名:カナリア諸島(Islas Canarias)
  • 首都:サンタクルス・デ・テネリフェとラス・パルマス(共同首都)
  • 面積:約7,500km²
  • 人口:約220万人
  • 公用語:スペイン語
  • 法的地位:スペインの自治州

「8つの主要島」

カナリア諸島は、8つの主要島から成ります。最大でスペイン最高峰のテイデ山があるテネリフェ島、グラン・カナリア島、ランサローテ島、フェルテベントゥラ島、ラ・パルマ島、ラ・ゴメラ島、エル・イエロ島、そして2018年に主要島として認定された小さなラ・グラシオサ島です。

「テイデ山」 ── スペイン最高峰

テイデ山(Mount Teide、3,718m)は、スペインの最高峰です。テネリフェ島の中央にそびえるユネスコ世界遺産で、最後の噴火が1909年という活火山です。

「カナリア=犬」?

「カナリア諸島」(Canarias)という名前は、ラテン語で「犬」を意味します。「Canariae Insulae」は「犬の島」という意味で、古代ローマが島で大型犬を見つけて命名したとされます。

鳥のカナリアは、後にこの島から名づけられました。犬から島、そして鳥へという、興味深い順番です。

「アフリカ大陸の100km沖」

カナリア諸島の地理的位置は、独特です。モロッコ・西サハラの沖、約100kmのところにあります。スペイン領なのに、アフリカ大陸のすぐ近くにあるのです。地理的にはアフリカ、政治的にはヨーロッパという位置づけです。

「観光と亡命者の島」

そして、現代の課題もあります。カナリア諸島はヨーロッパ最大級の観光地で、年間1,500万人以上の観光客が訪れます。その一方で、アフリカからのボートピープル・移民問題を抱えており、カナリア・ルートとして知られています。


まとめ:母と息子のデザイン、2県の融合

今回のカナリア諸島旗のまとめです。

  • 白・青・黄の縦三色(公式版は中央に紋章)
  • 1982年8月16日、自治州基本法で正式採択
  • 1961年9月8日、カルメン・サルミエントと息子アルトゥロ・ヘススが家族でデザインし、紙の旗として初公開
  • フランコ独裁時代の「カナリアス・リブレ(自由カナリア)」運動のシンボル
  • 白はサンタクルス・デ・テネリフェ県、青は両県共通(大西洋)、黄はラス・パルマス県
  • 2県(サンタクルス・デ・テネリフェとラス・パルマス)の伝統色を融合
  • 共同首都はサンタクルス・デ・テネリフェとラス・パルマスの2都市
  • 8つの主要島、面積約7,500km²、人口約220万人
  • テネリフェ島のテイデ山(3,718m)はスペイン最高峰、ユネスコ世界遺産
  • 国名「Canarias」はラテン語「犬」、犬から島、鳥(カナリア)の順
  • モロッコ・西サハラの沖約100km、地理的にはアフリカ
  • ヨーロッパ最大級の観光地、年間1,500万人以上

地下運動から、自治州の旗へ。カナリア諸島の旗は、1960年代の自由カナリア運動の遺産を、家族の手書きデザインから育てた、スペイン民主化と自治の象徴です。