赤と緑の横二色、旗竿側に白地に赤い伝統的な刺繍模様の縦帯。これがベラルーシの国旗、「白ロシア」を意味する東欧国家の旗です。1991年の独立時、ベラルーシは別の旗(白赤白)を採用しましたが、1995年の国民投票で「ソ連時代の旗を基にしたデザイン」へと復活させました。これは、世界の国旗のなかで珍しい「ソ連時代に回帰した国家」の事例です。今回はそんなベラルーシ国旗の話。


まずは構成のおさらい

ベラルーシ国旗の構成は、次のとおりです。

  • 横2本の帯(上から):赤(広め)・緑
  • 左側(旗竿側):白地に赤い伝統刺繍模様(ルシニク、Rushnyk)の縦帯
  • 比率:1:2

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :ベラルーシ防衛者の血、特に1410年グルンヴァルトの戦いと第二次世界大戦の赤軍の戦い
  • :ベラルーシの広大な森林、農業、希望、春の再生
  • 白+赤の刺繍模様:ベラルーシ伝統文化、民族の精神

ソ連時代の旗をベースに、共産主義シンボルを削除し、刺繍模様の色を反転させた、世界の国旗のなかで唯一の「ソ連旗の改訂版」です。


「ルシニク」 ── 伝統刺繍模様

ベラルーシ国旗の最も特徴的な要素が、ルシニク(Rushnyk)です。

ルシニクとは

ルシニクは、ベラルーシ・ウクライナ・ロシアの伝統的な刺繍タオルです。結婚・洗礼・葬儀といった重要な儀式に使われ、手織りの麻布に幾何学的な模様を刺繍します。民族のアイデンティティの象徴であり、「スラヴ文化の至宝」とも呼ばれます。

マトロナ・マルケヴィチの設計

ベラルーシ国旗の刺繍模様は、マトロナ・マルケヴィチ(Matrona Markevich)が1917年にデザインしました。彼女自身のオリジナル刺繍で、古代スラヴ刺繍の研究を基にしたものです。ベラルーシ農村の伝統的なルシニク模様の典型とされます。

模様の意味

模様の各要素には諸説あります。太陽・植物・大地など自然と豊穣の象徴であり、農業民族の幸せを願う模様、ベラルーシ人の集団的精神を表すものとされます。

トルクメニスタンのカーペット模様と並ぶ、伝統工芸を国旗にした稀な例ですが、ベラルーシは唯一、刺繍タオルを国旗に組み込んだ国です。


1995年5月14日 ── 国民投票で旗を復活

ベラルーシ国旗には、世界でも珍しい歴史的経緯があります。

1991年独立、白赤白旗

1991年8月25日、ベラルーシがソ連からの独立を宣言します。新しい国旗は白赤白の横三色で、1918年のベラルーシ人民共和国時代の旗を復活させたものでした。「ソ連時代との決別」を象徴する旗です。

この白赤白の旗は、1918年に短命だったベラルーシ人民共和国(独立宣言から約9ヶ月で消滅)の遺産です。第二次世界大戦中のナチス占領下では、対独協力組織(ベラルーシ中央評議会)がこの白赤白旗をシンボルとして使用していました。このため、現代でもルカシェンコ政権や支持層から「ナチス協力者の旗」として激しく批判・タブー視される、極めてデリケートな歴史的背景があります。

1994年、ルカシェンコ大統領

1994年7月、アレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)が大統領に就任します。当時39歳の若い指導者でした。「ソ連時代との連続性」を強調する政策をとり、ロシアとの密接な関係を志向しました。

1995年5月14日、国民投票

そして1995年5月14日、ベラルーシで国民投票が行われます。4つの質問があり、そのうち1つが国旗変更でした。質問は「白赤白の旗を、ソ連時代のベラルーシ・ソビエト社会主義共和国の旗に近いデザイン(共産主義シンボル削除)に変更すべきか」というものです。結果は、賛成75.1%、反対24.9%、投票率64.7%でした。

国民投票でソ連時代の旗を復活させるというのは、世界で唯一の事例です。ほとんどの旧ソ連諸国が「ソ連旗を放棄して新旗」を採用するなか、ベラルーシだけが「ソ連旗を改訂して使用」を選びました。

1995年6月7日、現代版発効

そして1995年6月7日、現行版の国旗が正式に発効します。基本は1951年のベラルーシ・ソビエト社会主義共和国国旗で、変更点は2つです。赤い星とハンマー&鎌を削除したこと、そして刺繍模様の色を反転させたこと(ソ連時代は赤地に白模様で赤が優勢だったものを、現在は白地に赤模様で白が優勢に反転)です。


旧ソ連旗との比較

ベラルーシ国旗を、ベラルーシ・ソビエト社会主義共和国(1951-1991)の国旗と比較してみます。

1951年版(ソ連時代)

赤と緑の横二色で、左には赤地に白い刺繍模様の縦帯(赤が優勢)がありました。左上には赤い星とハンマー&鎌(共産主義シンボル)が配されていました。

1995年版(現代)

赤と緑の横二色は同じです。左は白地に赤い刺繍模様の縦帯(模様反転)となり、共産主義シンボルはありません。

95%同じデザインで、変更点はほんの数点というのは、世界で唯一の「ソ連時代継承型」の国旗です。ハンガリーやブルガリアなど他の旧東欧諸国とは対照的です。


白赤白旗 ── 反政府のシンボル

そしてベラルーシには、もう1つの「国旗」が存在します。

白赤白旗

白赤白旗(Bel-Cher-Bel)は、1991年から1995年の独立直後の国旗でした。1918年ベラルーシ人民共和国の旗であり、「真のベラルーシ・アイデンティティ」として支持する人々がいます。2020年以降は、反ルカシェンコ抗議運動のシンボルとなりました。

2020年抗議運動

2020年8月、ベラルーシ大統領選挙の不正疑惑への抗議運動が起こります。数十万人の市民が抗議し、抗議者たちは白赤白旗を掲げました。一方、政府は現行の赤緑旗を掲げ、「2つの旗が並ぶ国」という内部対立の象徴となりました。

国旗が政府と反政府の対立シンボルになっているというのは、現代ベラルーシの分裂を物語っています(諸説あり、評価は政治的立場により大きく異なります)。

国旗の刺繍模様が民族の伝統を表す一方で、どちらの旗がベラルーシの「真の旗」なのか。これが現代ベラルーシの未解決の問いです。


ベラルーシという国

ベラルーシの基本情報です。

  • 正式名:ベラルーシ共和国(Рэспубліка Беларусь)
  • 首都:ミンスク(Минск)
  • 面積:約20.8万km²
  • 人口:約930万人
  • 公用語:ベラルーシ語、ロシア語(2つの公用語)
  • 宗教:ベラルーシ正教(約83%)、ローマ・カトリック(約12%)

「ベラルーシ=白ロシア」

国名「ベラルーシ」(Беларусь / Belarus)の語源を見てみます。「Бела (Bela)」は白を、「Русь (Rus')」はルーシ(古代スラヴ国家キエフ・ルーシ)を意味します。あわせて「Беларусь」で「白ルーシ」となり、英語訳は「White Russia」です。

「白」の意味諸説あり

「白」の意味には諸説あります。モンゴルに支配されなかった「自由な」スラヴ人を指す(白=自由)という説、ベラルーシ人の伝統的な白い衣装に由来するという説、キリスト教化前から「白」と呼ばれたという説などです。明確な起源は不明です。

「西側メディアからの『欧州最後の独裁』評」

ベラルーシは、ルカシェンコの長期支配が続いています。1994年7月から大統領を務め、現在まで30年以上に及びます。「欧州最後の独裁者」と西側メディアで称される一方、ロシアやBRICS諸国などとは異なる位置づけがなされています。ロシアとの同盟国家関係を強化しており、欧米諸国からは厳しい制裁を受けています。

2022年、ウクライナ侵攻と関与

2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻します。ベラルーシ領土からロシア軍が出撃し、ベラルーシも国際的な制裁対象となりました。2024年には、核兵器配備の容認も行われています。

国旗の赤、すなわち戦士の血というシンボルが、現代も繰り返し試されているというのが現代ベラルーシです(諸説あり、評価は政治的立場により大きく異なります)。


ちなみに:「ヨーロッパ最古の原生林のひとつ」

ベラルーシには、世界遺産級の自然があります。ビェロヴェジャ原生林です。

「ヨーロッパバイソン(ワイゼント)」の故郷

ビェロヴェジャ原生林(Belavezhskaya Pushcha)は、ベラルーシとポーランドの国境にあります。ヨーロッパ最大級の低地原生林であり、ヨーロッパに残された最古の原生林のひとつで、約8,000年の歴史を持ちます。絶滅寸前から保護されたヨーロッパバイソン(ワイゼント、Wisent / Bison bonasus)の生息地でもあります(別種の「オーロックス(Aurochs、17世紀に絶滅した牛の祖先)」とは別の動物です)。ユネスコ世界遺産にも登録されています。そして1991年12月8日、ここでソ連解体宣言(ベロヴェーザ合意)が締結されました。

ソ連の終焉がヨーロッパ最古の森で宣言されたというのは、世界史の重要な瞬間です。国旗の緑、すなわち森と再生というシンボルが、この場所と結びつきます。


まとめ:ソ連時代の旗を、国民投票で復活させた国

今回のベラルーシ国旗まとめ。

  • 赤・緑の横二色+左側に白地に赤い伝統刺繍模様(ルシニク)の縦帯
  • 1995年6月7日、ルカシェンコ大統領下で現行版発効
  • 同年5月14日の国民投票で、賛成75.1%・反対24.9%で旗の変更が決定
  • 1991-1995年は白赤白の旗(1918年ベラルーシ人民共和国の遺産。第二次大戦中のナチス占領下では対独協力組織のシンボルでもあったため、現在は政治的にタブー視される背景がある)
  • 現行版は1951年ソ連時代のベラルーシSSR旗を基に、共産主義シンボルを削除
  • 刺繍模様の色は反転(ソ連時代:赤地に白模様=赤が優勢、現在:白地に赤模様=白が優勢)
  • 赤=防衛者の血(1410年グルンヴァルト・WWII赤軍)、緑=森林・農業・希望
  • 刺繍模様はマトロナ・マルケヴィチが1917年デザイン、ベラルーシ伝統文化の象徴
  • 国名「ベラルーシ」=「白ルーシ」(白ロシア)、「白」の意味は諸説あり
  • 1991年8月25日ソ連から独立、1994年からルカシェンコ大統領(30年以上)
  • 2020年大統領選不正疑惑への抗議運動で、白赤白旗が反政府シンボルに
  • 2022年ウクライナ侵攻でロシアを支援、国際的孤立深まる
  • 世界遺産ビェロヴェジャ原生林(ヨーロッパ最古の原生林のひとつ、ヨーロッパバイソン=ワイゼントの生息地)
  • 1991年12月8日、ここでソ連解体宣言(ベロヴェーザ合意)が締結された

国民投票でソ連時代の旗を復活させた、世界で唯一の国。ベラルーシの国旗は、スラヴ伝統と社会主義時代の遺産を融合した極めて独特な1枚であり、21世紀東欧の複雑な政治史を体現しています。