世界には約200の国旗があり、たくさんの海外領土の旗があります。でも、どこの国にも属さない大陸にも旗があるのを知っていますか。南極大陸の旗です。国も政府もない、氷の大陸の旗で、研究基地で働く一人の青年がテントの切れ端から作った旗が、今や南極を代表しつつある1枚。今回はそんな南極の旗の話です。


まずは整理:南極には「国」がない

南極の旗を語る前に、まず前提を整理します。

国がないから、国旗もない

南極大陸は特殊な地です。どこの国の領土でもなく(領有権は凍結されています)、人が定住しない、科学研究のための大陸です。だから、正式な「国旗」は存在しません。

でも、旗はいくつかある

そのかわり、南極を代表する旗がいくつか作られてきました。南極条約の紋章旗、グラハム・バートラムの地図旗、そして近年広まるトゥルー・サウス旗です。国旗はないが、大陸を象徴する旗はあるという、世界でも唯一の存在です。


「南極条約」 ── 旗の背景にあるルール

南極の旗を支えるのは、国際的な枠組みです。

1959年、南極条約

1959年の南極条約は、南極の領有権の主張をすべて「凍結」しました。軍事活動を禁止し、科学的協力と平和利用のための大陸とするものです。現在、54の国が締約国となっています。

特定の国のものにしない、というのが南極の大原則です。だから南極の旗は、政治的に中立であることが求められます。


「地図の旗」 ── 国連スタイルの白い南極

南極を代表する、伝統的な旗を見ていきます。

白い大陸 on 青

代表的なのが、白い南極大陸を青地に描いた旗です。1996年にグラハム・バートラムがデザインした地図旗で、国連旗に似た、青地に白い南極大陸というデザインです。2002年に定められた南極条約の公式紋章も、青地に白い南極大陸を描いています。国連のように中立的な、白い大陸の地図という、わかりやすいデザインです。


「トゥルー・サウス」 ── テントの切れ端から生まれた旗

南極の旗の、新しい主役がトゥルー・サウス旗です。

2018年、研究基地の青年が作った

トゥルー・サウス旗(True South)は、2018年の冬、南極の研究基地で働いていたエヴァン・タウンゼンドがデザインしました。彼はデザインの専門教育は受けておらず、テントや道具袋の切れ端から最初の1枚を作ったといいます。

デザインの意味

トゥルー・サウス旗の構成は、次のとおりです。上半分が濃紺、下半分が白で、濃紺は南極の冬の極夜を、白は南極の夏の白夜を表します。中央には白い山(ピーク)が濃紺に突き出し、氷山や氷の峰が連なる南極のスカイラインを描いています。その山の下には南を指すコンパスがあり、南極の位置を示します。山とコンパスが合わさると「ダイヤモンド」の形になり、平和と協力の継続を表します。

特定の山ではなく、南極のどこにでもある氷の峰だとされますが、タウンゼンドが最もよく見た山はエレバス山だったとか。

中立であること

トゥルー・サウス旗で最も大切にされたのは、政治的に中立で、どの国も疎外しない普遍的なシンボルであることでした。南極条約の精神に沿うデザインです。


「大陸を代表する旗へ」

トゥルー・サウス旗は、しだいに広がっていきます。

各国の南極事業が支持

この旗は、国の南極事業(National Antarctic Program)に支持された初めての南極旗で、6つの事業が支持しました。南極大陸で広く使われるようになった初めての旗でもあります。

気候変動への「声」

そして、この旗には願いが込められています。国を持たない南極に「声」を与え、気候変動の時代に大陸を守るシンボルにしたい、という願いです。人が定住しない大陸に、人々が旗を捧げたという、現代ならではの旗の物語です。


南極大陸という場所

南極大陸の基本情報です。

  • 名称:南極大陸(Antarctica)
  • 面積:約1,400万km²(世界第5位の大陸)
  • 人口:定住者なし(各国の研究基地に季節的に数千人)
  • 法的地位:南極条約により領有権凍結、どの国にも属さない

「氷と科学の大陸」

南極は極限の地です。地球上で最も寒く、最も乾燥し、最も風の強い大陸で、大陸の約98%が氷に覆われています。キングペンギン、コウテイペンギン、アデリーペンギン、アザラシの世界です。イギリス、フランス、アルゼンチン、チリなど各国が領有を主張していますが、すべて凍結されています(諸説あり)。


まとめ:国を持たない大陸の、旗

今回の南極の旗のまとめです。

  • 南極大陸はどの国の領土でもなく(領有権は凍結)、人も定住しないので、正式な「国旗」は存在しない
  • そのかわり、南極を代表する旗がいくつか作られてきた
  • 1959年の南極条約が領有権を凍結し、科学協力と平和利用の大陸と定めた(締約国54)
  • 伝統的な旗:青地に白い南極大陸を描いた地図旗(1996年グラハム・バートラム、2002年の南極条約公式紋章も同様)、国連旗に似た中立的デザイン
  • 近年の主役:トゥルー・サウス旗(True South)
  • 2018年、研究基地で働くエヴァン・タウンゼンドがテントの切れ端からデザイン(専門教育なし)
  • 上が濃紺(極夜)・下が白(白夜)+中央に氷の峰+南を指すコンパス=平和と協力の「ダイヤモンド」
  • 特定の山ではなく南極のどこにでもある峰(本人が最もよく見たのはエレバス山)
  • 政治的に中立で普遍的なシンボルを目指した
  • 国の南極事業に支持された初の南極旗(6つが支持)、大陸で広く使われる初の旗
  • 国を持たない南極に「声」を与え、気候変動の時代に大陸を守るシンボルにという願い
  • 南極は面積約1,400万km²、定住者なし、領有権は南極条約で凍結

国も政府もない大陸に、人々が捧げた旗。南極の旗は、誰のものでもなく、みんなのものである氷の大陸を象徴する、世界で最もユニークな1枚です。