ピレネー山脈のフランスとスペインの境に挟まれた小国、アンドラ。人口およそ8万人の小さな国ですが、その政治制度は世界でもまったく類のないものです。国家元首が2人、しかも両方とも外国人で、フランスの大統領と、スペインのウルジェル司教が務めています。今回はそんなアンドラの旗の話です。
まずは構成のおさらい
アンドラ国旗は、左から青・黄・赤の縦三色(バーティカル・トライバンド)です。中央の黄色には国章が描かれています。
- 配色:青・黄・赤の縦三色
- 中央:黄色の帯に国章
- 幅の比率:8:9:8(中央の黄色だけ少し広い)
- 縦横比:7:10
ちょっとマニアックな見どころなのですが、3本の帯の幅は均等ではなく、中央の黄色だけが少し広くなっています。比率は8:9:8で、均等じゃないところに、ちょっとした個性があるんです。
色の由来は、3色がそのまま隣国から借りてきたものです。青と赤はフランス国旗から、赤と黄はスペイン国旗(カタルーニャ)から取られています。そして3色が合わさることで、両国の影響下にありつつ独立した存在であることを示しています。両隣の色を全部入れたという発想で、政治史をそのままビジュアル化したような旗です。
「共同公国」という、世界に唯一の制度
アンドラ国旗を理解するには、まず共同公国(Co-Principality)という制度を知っておく必要があります。
アンドラは現在、2人の「公」を国家元首として戴く国です。ひとりはフランス共和国大統領(現在はエマニュエル・マクロン)、もうひとりはウルジェル司教(スペイン・カタルーニャ地方の都市ラ・セウ・ドゥルジェイのカトリック司教)です。
両方とも外国人で、アンドラ国民から選ばれた人ではありません。これは本当に珍しいことで、外国の元首2人を共同で国家元首として戴く国は、世界で唯一アンドラだけです。
しかも片方はフランス共和国の大統領(民主的選挙で選ばれる)、もう片方はカトリック教会の司教(教皇が任命する)。選挙で選ばれる人と、教皇が任命する人が、同時に同じ国の元首になるというカオスな仕組みが、現代でも続いています。
起源は1278年、746年以上続く制度
この共同公国制度がいつから始まったかと言うと、なんと1278年。鎌倉時代後期、日本がまだ元寇に怯えていた頃です。
中世のピレネー山中で、領地の境界をめぐってウルジェル司教(教会領)とフォア伯(フランス側の封建領主)が長く揉めていました。武力衝突に発展しそうになるなか、両者が結んだのがパレアジュ条約(Paréage)です。「この谷を、2人で共同で治めよう」という合意であり、これによってアンドラの谷は2人の領主の共同統治下に置かれることになりました。
その後、フォア伯の領地はナバラ王国を経てフランス国王へ、そしてフランス革命後はフランス共和国の大統領へと継承されていきます。一方のウルジェル司教は今も同じ職位として継続しています。746年以上、ほぼ同じ仕組みのまま現代まで生き残ったという、奇跡的な制度なんです。
国章の4つの区画は「4人の保護者」
中央の国章をよく見ると、4つの区画に分かれていることがわかります。それぞれが、歴史的にアンドラを守ってきた4つの勢力を表しています。
- 左上:ウルジェル司教の紋章(ミトラと杖)
- 右上:フォア伯の紋章(縦縞)
- 左下:カタルーニャの紋章(赤と黄の縦縞)
- 右下:ベアルン子爵の紋章(牛2頭)
アンドラの独立は、この4つの勢力の力関係のなかで保たれてきたというメッセージが、紋章に直接書き込まれているわけです。
そして国章の下部には、ラテン語のモットー「Virtus Unita Fortior(団結したる徳は、さらに強し)」が記されています。2つの公の力が合わさることで、アンドラは強くいられるという意味で、共同公国制度をそのまま言語化したフレーズです。
1993年に「国連加盟」と同時に標準化された
現在のデザインが標準化されたのは、意外と最近で1993年のことです。
それまでアンドラ国旗は、国章のない簡易版が1866年に作られ、19世紀から20世紀にかけてさまざまなバリエーション(縦縞と横縞が入れ替わったり、紋章のデザインが少しずつ違ったり)が混在していました。
転機は1993年のアンドラの国連加盟でした。国連加盟にあたって正式デザインを1つに定める必要が生じ、現在の8:9:8の幅比・縦横比7:10・中央に標準化された国章、というレイアウトが確立しました。746年の歴史と最近30年の標準化が同居している、ちょっと不思議な旗です。
まとめ:1枚の旗に、世界最古級の政治制度が詰まっている
今回のアンドラ国旗のまとめです。
- 青・黄・赤の縦三色(中央の黄が少し広く、幅比は8:9:8)
- 青・赤はフランス、赤・黄はスペイン(カタルーニャ)から
- 中央の国章は「4つの保護者」(ウルジェル司教・フォア伯・カタルーニャ・ベアルン子爵)
- モットーはVirtus Unita Fortior(団結したる徳はさらに強し)
- 起源は1278年のパレアジュ条約、746年以上続く共同公国制度
- 現在の元首はフランス大統領とウルジェル司教(世界で唯一、外国人2人が共同で国家元首を務める国)
- 国旗デザインの標準化は1993年(国連加盟時)
ヨーロッパの小国と聞くと地味に感じるかもしれませんが、アンドラは世界で最も特殊な政治制度を持つ国のひとつです。それを国旗1枚にまるごと圧縮しているというのが、今回お伝えしたかったところです。