赤地に、黒い双頭の鷲。ヨーロッパの国旗のなかでも、ひときわ強烈で印象的なのがアルバニアの旗です。よく見ると目つきが鋭くて、ちょっと怖いくらい。でもこの旗には、「同じ日付に、469年の時を超えて2回掲揚された」というドラマがあるんです。今回はそんなアルバニア国旗の話を。


まずは構成のおさらい

アルバニア国旗のデザインは、きわめてシンプルです。

  • 背景:赤
  • 中央:黒い双頭の鷲(2つの頭がそれぞれ左右を向く)

文字も模様も他になく、ただ赤と黒の2色だけで構成された旗です。でも、このシンプルさのなかに、500年以上の歴史がぎっしり詰まっています。


双頭の鷲は、どこから来たのか

「双頭の鷲」というモチーフは、いまも使っている国がいくつかあります。ロシア、セルビア、モンテネグロ、そしてアルバニアです。じつはこのモチーフ、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の皇帝旗にルーツがあります。

ビザンツ帝国はかつて「西と東、両方を見渡す力」の象徴として、2つの頭を持つ鷲を旗印にしていました。中世のキリスト教世界では「強大な君主のシンボル」として扱われ、その流れを汲む国々が今もその意匠を引き継いでいる、という構図です。

アルバニアの場合、この双頭の鷲を個人の家紋として使っていた人物が、国の旗の起源を作りました。それが、次の人です。


1443年、スカンデルベグが掲げた旗

アルバニアの国民的英雄、スカンデルベグ(本名 ジェルジ・カストリオティ、Gjergj Kastrioti、1405-1468)。

幼くしてオスマン帝国に人質として連れていかれ、オスマン軍の将軍として育てられた彼は、1443年にオスマン軍を脱走してアルバニアに帰国します。そして1443年11月28日、要塞都市クルヤで赤地に黒い双頭の鷲(家紋)の旗を掲げ、自由なアルバニア公国の樹立を宣言しました。

ここから25年間、彼は小さな山岳地帯を率いて、巨大なオスマン帝国の侵攻に抵抗し続けます。当時のヨーロッパ世界では奇跡的な抵抗とされ、ローマ教皇からはアスレタ・クリスティ(キリストの戦士)の称号を授かるほどでした。

しかし1468年にスカンデルベグが亡くなると、その抵抗も次第に崩れ、アルバニアはふたたびオスマン帝国の支配下に入ります。それから約500年、彼の旗は「失われた独立の記憶」として、しかし民族の象徴として、語り継がれ続けました。


469年後の同じ日、ふたたび掲揚される

ここが、この話のいちばんおもしろいところです。

1912年11月28日、スカンデルベグが旗を掲げてから469年後の、同じ日のことでした。バルカン半島南部の港町ヴロラ(Vlorë)で、独立運動家イスマイル・ケマリ(Ismail Qemali)が、アルバニアの37名の代表とともにヴロラ会議を開催します。

会議が開かれたのは、ケマリの従兄にあたるジェミル・ベイ・ヴロラ(Xhemil Bey Vlora)の館でした。会議の最後、ケマリはそのバルコニーから、スカンデルベグと同じ赤地・黒い双頭の鷲の旗を掲げ、オスマン帝国からのアルバニア独立を宣言します。

ちなみに「あの瞬間に掲げられた物理的な旗がどこから来たか」については、「ケマリ自身がポケットから取り出した」「ヴロラ家が代々保管していた」「スピロ・ミロという人物が持ち込んだ」など、強烈な諸説が存在します。いまだに完全には解明されていない、国旗ミステリーでもあるんです。

この日付の符合は、もちろん偶然ではありません。1443年のスカンデルベグの旗揚げの記憶を、469年後の独立の瞬間に重ねたのです。スカンデルベグの旗が、500年の眠りから再び立ち上がった日、ということなんです。

国旗そのものは、デザインの細部が時代ごとに少し変わってきましたが、「赤地に黒い双頭の鷲」という骨格はずっと不変です。それくらい、この旗とこの国は結びつきが強い、ということです。


11月28日は「独立記念日」と「国旗の日」を兼ねる

そんな経緯があるので、アルバニアの11月28日は、現在も2つの意味を持つ祝日になっています。

  • 独立記念日(Dita e Pavarësisë)
  • 国旗の日(Dita e Flamurit)

国の独立と、国旗が掲げられた日が、ぴったり一致している。これは世界の国の中でも珍しい部類です。


共産時代だけ、ちょっとデザインが違っていた

国旗の歴史を辿るなかで唯一「ちょっと違うアルバニア国旗」があるのが、1944〜1992年の社会主義時代です。この時期は、双頭の鷲の上に黄色い星が加えられていました。エンヴェル・ホッジャ率いるアルバニア社会主義人民共和国の時代です。

1992年、共産政権崩壊とともに星は外され、シンプルな「鷲だけ」のデザインに戻りました。500年以上前の旗が、社会主義時代を経て、ふたたび原型に戻った、という流れです。


まとめ:旗が、国の記憶を保ち続けてきた

今回のアルバニア国旗のまとめです。

  • 赤地に黒い双頭の鷲という、シンプルだが強烈なデザイン
  • 双頭の鷲はビザンツ帝国(東ローマ)由来の意匠
  • 1443年11月28日、スカンデルベグがクルヤで初めて掲げた家紋がルーツ
  • スカンデルベグは25年間オスマン帝国に抵抗、教皇から「キリストの戦士」の称号
  • 1912年11月28日、469年後の同じ日にイスマイル・ケマリがヴロラで独立宣言・同じ旗を掲揚
  • 11月28日はいまも「独立記念日」と「国旗の日」を兼ねる祝日
  • 共産時代(1944-1992)は鷲の上に黄色い星があったが、現在は原型に戻っている

「旗が国の記憶を、500年以上保ち続けた」。アルバニアの旗は、そういう希少な1枚なんです。