青地に、黄色の北欧十字と、その中央に重なる赤い十字。オーランド諸島の旗は、バルト海に浮かぶフィンランドの自治領の旗です。住民の約9割がスウェーデン語話者であり、フィンランド国家のなかのスウェーデン文化の島と言える存在です。1921年に国際連盟が決定した、世界でも稀な自治制度のモデルを持つ1枚。今回はそんなオーランド諸島旗の話です。


まずは構成のおさらい

オーランド諸島旗の構成は、次のとおりです。

  • 背景:青
  • 黄色(金)の北欧十字:縦棒が旗竿側に寄っている(ダンネブロースタイル)
  • 黄色十字の上に重なる赤い十字:黄色より細い

色とシンボルの意味は、以下のとおりです。

  • :バルト海、オーランド諸島を取り囲む海
  • 黄(金):スウェーデン。オーランド諸島が伝統的にスウェーデン王国に属していた歴史を表します
  • :フィンランド。現在の主権国家を表します

スウェーデン国旗(青地に黄十字)に、フィンランドのシンボルである赤を重ねたデザイン。世界で最も明確に、2つの母国を視覚化した1枚です。


「スウェーデン旗+フィンランドの赤」

オーランド諸島旗の、世界的に独特な構成を見ていきます。

スウェーデン旗の変形

スウェーデン国旗は、青地に黄色の北欧十字です。これはオーランド諸島の伝統色そのものでもあります。

そしてオーランド諸島旗は、このスウェーデン旗に赤い十字を重ねた形をしています。スウェーデン文化を継承するが、現在はフィンランド領であるという、両方の母国への敬意を込めたデザインです。

国旗や地域旗のなかで、2つの主権・文化を1枚に重ねた稀な例というのが、オーランド諸島の特徴です。


1921年 ── 国際連盟が決めた自治

オーランド諸島には、世界史的に重要な物語があります。

1917年、フィンランド独立

1917年12月6日、フィンランドがロシア帝国から独立します。このときオーランド諸島も自動的にフィンランドの一部となりました。しかしオーランド住民の約9割はスウェーデン語話者であり、フィンランド語ではなくスウェーデン語を話す島でした。

「スウェーデンへの編入運動」

1917年から1920年にかけて、オーランド住民の運動が起こります。フィンランドではなく、スウェーデンに編入してほしいという声でした。住民投票でも約95%がスウェーデン編入を支持しましたが、フィンランドはこれを拒否しました。

1921年、国際連盟の決定

1921年6月24日、国際連盟がオーランド諸島問題について決定を下します。オーランド諸島はフィンランド領としつつ、広範な自治を保証するという内容でした。スウェーデン語を公用語とし、非武装化・中立化を定めた、オーランド自治制度です。

国際機関が解決した、世界で最も成功した自治制度のモデル。それがオーランドです。この制度は、南チロルやグリーンランドなどの自治制度のモデルにもなりました。


1954年4月3日 ── 旗の正式採択

オーランド諸島旗の、現代の制定を見ていきます。

1935年、フィンランド政府が地域旗を禁止

1920年代、オーランドは独自の青と黄の旗を非公式に使用していました。スウェーデン旗に似たデザインです。しかし1935年、フィンランド政府がこれを禁止しました。

1952年、自治旗の法制化

1952年、オーランド議会が独自旗を採用する権利を獲得します。当初案は青地に黄色十字で、スウェーデン旗とほぼ同じものでした。しかしフィンランド大統領ユホ・クスティ・パーシキビが、スウェーデン旗と同じでは困るとしてこれを拒否しました。

1954年、現代版

そして1954年、現代のデザインに落ち着きます。青地に黄色十字、その中央に赤い十字を重ねた、スウェーデンの色にフィンランドの赤を加えた形です。

1954年4月3日、初掲揚

1954年4月3日、マリエハムンで新旗が初めて掲揚されました。以後、毎年4月3日がオーランドの旗の日となっています。


オーランド諸島という自治領

オーランド諸島の基本情報です。

  • 正式名:オーランド諸島(Åland、フィンランド語:Ahvenanmaa)
  • 首都:マリエハムン(Mariehamn)
  • 面積:約1,580km²
  • 人口:約3万人
  • 公用語:スウェーデン語(唯一の公用語)
  • 法的地位:フィンランドの自治領

「フィンランド領、しかしスウェーデン語のみが公用語」

オーランド諸島には、極めて独特な制度があります。フィンランドの主権下にありながら、公用語はスウェーデン語のみなのです。フィンランドのなかで、フィンランド語が公用語ではない地域であり、ヨーロッパで最も成功した自治制度のモデルとも言われます。

「6,500の島々」

オーランド諸島は、約6,500の島々から成ります。その多くは無人島で、バルト海の群島と呼ばれています。

「中立・非武装」

そして、1921年以来の特殊な地位があります。オーランド諸島は完全な非武装地帯であり、第二次世界大戦中も中立を維持しました。NATOやEUへの加盟後も、非武装を保っています。

コスタリカやリヒテンシュタインと並ぶ、軍隊を持たない地域。それがオーランドです。

「.ax」 ── 独自のドメイン

そして、オーランドには独自のインターネット国別ドメインがあります。「.ax」です。自治領で独自のドメインを持つ、稀な例です。


まとめ:2つの母国、1つの旗

今回のオーランド諸島旗のまとめです。

  • 青地に、黄色の北欧十字と、中央の赤い十字
  • 1954年4月3日、マリエハムンで初掲揚(毎年4月3日はオーランドの旗の日)
  • 1952年、オーランド議会が独自旗の権利を獲得
  • 1920年代の青黄旗(スウェーデン旗に酷似)は1935年にフィンランドが禁止
  • 青はバルト海、黄はスウェーデン(伝統文化)、赤はフィンランド(現在の主権)
  • 1917年のフィンランド独立で自動的にフィンランド領に
  • 1921年6月24日、国際連盟がオーランド問題で決定(フィンランド主権と広範な自治)
  • スウェーデン語が唯一の公用語、住民の約9割がスウェーデン語話者
  • 約6,500の島々、人口約3万人、首都マリエハムン
  • 1921年以来の完全非武装・中立地帯
  • 独自のインターネットドメイン「.ax」
  • 「世界で最も成功した自治制度のモデル」

スウェーデン文化と、フィンランド主権を、1枚の旗に。オーランド諸島の旗は、世界で唯一、2つの母国の関係を視覚化した、自治領の知恵を体現する1枚です。